質問事例
私は、かつてブラジルに20年住んでいた経験を活かして、帰国後にブラジル料理店を運営し、今では法人化して3店舗を経営しています。そして、幸いにも次男がブラジル料理に興味を持ってくれて、私の死後は、次男に社長になってもらいたいです。
このような会社の承継の際に注意すべきことはあるでしょうか?
解説
中小企業のオーナーが親族に経営権を承継される場合、相続に伴うリスクが存在します。特に注意しなければいけないのは、1相続税の負担と2相続争いによる業務の停滞の2つです。
まず、相続税については、例えば次男が自社株を全て相続して、経営権を承継する場合には、その自社株の評価額に対応した相続税が発生する恐れがあります。上場企業ではないので、市場価値がないと思われるかもしれませんが、自社の純資産額に応じた評価や上場している類似の事業者の株価を参考に評価額を算定することが可能なため、その評価額によっては相続税が発生する可能性があります。
しかし、相続人に潤沢な預貯金がなければ、自社株を承継した際の納税資金が足りなくなる恐れがあります。そのような事態を回避するためには、予め、不動産購入や設備投資などで純資産額を下げておくことが有効です。つまり、不動産を購入すれば不動産の資産評価は固定資産評価額になるので、通常は、購入した価額より低いので、現金から不動産に資産が転化する際に純資産評価を下げることができます。設備投資も減価償却があるので現金を保持し続けるより、純資産額を下げる効果があります。
また、自社株の相続に伴う納税の猶予制度があり、これにより納税資金が確保されるまで相続税の支払いを猶予できる場合があります。ただ、この猶予の条件は厳しく、被相続人であるオーナーが代表者でありかつ、5割以上の株式を保有する筆頭株主であり、相続人も会社の代表者になること等が要件となってきます。
次に相続人同士による相続争いのリスクについて説明します。質問事例で弟がオーナーが持つ自社株を全て取得すると、法定相続分を大幅に超えてしまい、他の兄弟が納得しないで遺産分割の協議が成立しないまま長期間が経ってしまう恐れがあります。
自社株について遺産分割によりその帰属が確定しないと相続人全員が共有者となってしまうので、株主総会などで重要な事項を決定できない状態が続き会社業務が停滞してしまいます。自社株を等分しても同じことが起こります。
そこで、次男がオーナーの自社株を全て取得するなら、他の兄弟に相続分を超える分のお金を支払い遺産分割協議をまとめることが考えられます。ただ、相続税の負担に加えてさらに他の相続人への金銭支払の余裕がある場合は珍しいでしょう。
そうすると、相続税対策で述べた自社株の評価基準となる純資産評価額を下げる工夫を事前に着手することが重要になります。自社株の評価額が下がれば、法定相続分の超過額の幅も下がるからです。その他に、遺言書を作成して、次男に自社株を譲る旨を明記する方ホうがあります。そうすれば他の兄弟は遺留分の限度でしか次男に対して金銭代償の請求ができないからです。遺留分は法定相続分の半分しか認められないので、その分だけ次男の金銭代償の負担が減ります。
あるいは、次男がオーナーの生前からブラジル料理店の事業拡大や成長に貢献してきたのなら、それを寄与分として主張して、法定相続分より多くの相続ができることを正当化する余地があります。寄与分の主張立証を用意にするためにもオーナーが遺言書を作成して、次男のブラジル料理店への貢献の程度を具体的に記載することも必要になってくるでしょう。