遺言書を作成する主な目的は、亡くなられた後の相続をスムーズにするためであったり、共同相続人間の紛争を未然に防ぐことにあります。なので、相続人が一人であって紛争の余地がない場合や、相続財産が預金口座一つだけなどのように遺産構成が単純で相続の手続きが容易である場合には、あえて、遺言書を作らなくてもよいかもしれません。
そうなると、遺言書が必要なのは、これらの逆のパターン、ということになります。
例えば、不動産を10個も20個も所有しており、遺言書を作成しないまま、亡くなったとします。仮に亡くなった方の3人の兄弟の仲がよくて、分け方で話し合いがまとまったとしても登記名義の変更の手続きが必要となります。そして、1個1個の不動産ごとに遺産分割協議書が必要となります。
全ての不動産の分け方について一つの協議書に記載してコピーをすることもできますが、個別の不動産について逐一、誰が所有するか、持ち分はどうするか、といった記載が必要になり、やってみると、かなりの手間となります。
そもそも、これだけ不動産を持っている方だと、相続人からすれば、全ての所有不動産を把握できずに放置される不動産が出てくる恐れがあります。
遺言書を作成すれば、どこに所有不動産があるか一目瞭然となるし、いちいち、遺産分割協議書を作成しなくても遺言書に基づいて登記名義の変更ができます。
また、紛争を未然に防ぐための遺言の典型例は、分割しやすい
現預金よりも分けにくい不動産の割合が遺産の多くを占める場合です。とりわけ、遺産となる不動産の一部を相続人が現に使用している場合には、売却することが困難なため、分配方法がなかなか決まらないことが多いです。
その他に兄弟の人数が多く、全員が集まってきちんと話し合いをすることが難しい場合も遺産分割の協議がまとまりにくい典型例です。
このような場合に、予めご本人が遺産の分配方法を遺言書を作って決めておけば、遺言書の内容が法律に違反しない限り、各相続人はこれに従わなければなりません。
遺言書を作らないで、相続人同士で紛争が生じてしまうと、解決までに1年以上かかってしまうことも珍しくありません。予め、遺言書を作っておけば、手続きにかかる数ヶ月以内に円滑な相続を実現できるでしょう。