父に2人の子がいて、10年前にその父が認知症になり、近所に住んでいた兄が仕事を辞めて父と同居して介護に専念していた事例で、介護が相続にどのように反映されるかを考えてみましょう。
この事例では、弟は仕事を続けて父の介護には関わっていません。当然、兄とすれば、父が亡くなった際、10年間の介護の努力を考慮して相続分を増やしたいと思うでしょう。家庭裁判所の審判例では、親の介護をした子に、その子の努力で親は介護施設へ入所しないですみその費用分だけ遺産の維持に貢献したとして、介護をした子を、介護をしなかった子より多くの相続分を認めたものがあります。
このように、相続人の努力によって遺産の維持や増加に貢献した場合に当該相続人の取り分を増やすことを寄与分といいます。ただ、介護に関わった相続人の寄与分が必ず認められるわけではありません。介護といっても抽象的な言葉なので、具体的に親の日常生活の支援をどこまでやってきたかが重要です。
単に同居して、日常的な買い物や掃除洗濯をしていたというだけでは、寄与分は認められにくいでしょう。被相続人である親の持ち家に親と同居していれば、観念的には家賃相当額を得しているわけです。持ち家も遺産になるので、親の持ち家に同居することで、被相続人の生前からその遺産から利益を受けていることになります。そうすると、親に対する介護が日常生活上の通常の世話の範囲にとどまっていると、家賃相当額で得た利益と相殺されるとみなされ、寄与分が認められにくくなります。
トイレや入浴の援助、通院やデイサービス等の付添などを徹底して介護をしていれば、比較的、寄与分が認められやすくなります。ただ、他の相続人が介護の事実を否認していると、立証しなければならなくなり、それが困難になることもありえます。実際に介護を受けていた被相続人は亡くなってしまい証言できませんから、自らの介護の記録を意識して残しておくことが有効です。結局は、事例ごとの判断になってしまいますが、病院やデイサービスのレシートを保存して自ら管理したり、同居していなかった場合には、交通系のICカードの履歴を保存して頻繁に被相続人宅の最寄り駅を利用していたことを立証する等のやり方があります。
相続の場面での介護の主張は、相続紛争を長期化する要因にもなりますので、生前の十分な対策をお勧めします。被相続人本人に十分な判断能力があれば、遺言の作成を勧めて、介護分を考慮してもらう内容の遺言書を残すのも有効な対策です。