コラム

認知症や相続人の判断能力に不安がある場合の遺産分割協議の仕方

2021.12.17

認知症や相続人の判断能力に不安がある場合の遺産分割協議の仕方

認知症や相続人の判断能力に不安がある場合の遺産分割協議の仕方

船橋・習志野台法律事務所の弁護士の中村です。

相続の場面では、高齢の夫婦のどちらかが亡くなることが多く、その場合、残された配偶者も高齢ゆえに判断能力に問題が生じることもあります。

このように、相続人の判断能力に不安がある場合、遺産分割協議によって遺産の分配方法を決める際の注意点について説明いたします。 

相続において必要な判断能力とは

相続において必要な判断能力とは

高齢の相続人の判断能力といっても、様々です。

  • 認知症ではないものの、物忘れが多い
  • 遺産を構成する不動産の価値や内容を正確に把握できない
  • 日常生活に支障はないが、通帳を見ても預金金額がわからない
  • 認知症が進んでいて、自分の子や兄弟姉妹のことがわからない

など様々な状況が想定されます。

では相続において必要は判断能力とはどの程度のものなのでしょうか?

相続人の判断能力が問題かどうかは慎重に吟味される

相続人の判断能力の問題で、遺産分割協議の無効確認を裁判所に訴えられた場合、単純に認知症か否かだけで決まるのではなく、成立した遺産分割協議の内容の複雑性や判断能力が問題となっている相続人が不利益を受ける程度など、協議の内容に大きく左右されます。

例えば、全ての遺産を認知症の相続人が取得する内容であれば、認知症がある程度進んでいても、相続が開始し被相続人の遺産の行く末が問題になっているという程度の認識があれば、遺産分割協議があとから無効とされにくくなります。逆に遺産の多くを他の相続人が取得し、認知症の相続人の取得分が少ない場合には、そのことを十分に理解できるだけの判断能力が残っているか、慎重に吟味されることになります。

相続人の判断能力が問題となりやすいケース

また、遺産分割協議の内容が被相続人の生前の状況から大きく乖離している場合にも、認知症になった相続人の判断能力が問題となりやすいです。例えば、被相続人である夫が亡くなった際に、夫名義に自宅に長年、夫と同居した認知症の相続人が自宅を明け渡して売却代金を分配する遺産分割協議が成立した場合、本当にその内容を理解して協議に応じていたかどうかを判断されることになります。

そもそも、認知症がかなり進行してしまい、自我が失われる程度になれば、遺産分割協議の内容に関わらず、もはや、遺産分割協議に応じることはできないでしょう。

判断能力に問題がある相続人がいる場合の遺産分割協議の方法

判断能力に問題がある相続人がいる場合の遺産分割協議の方法

遺産分割協議の当事者となるべき相続人の一部に判断能力が問題となる場合、どのような方法で有効な協議を成立させられるでしょうか?

以下、いくつかの方法を紹介します。

成年後見開始の審判申立

最も確実な方法は、認知症などで判断能力が低下した相続人に対して成年後見開始の審判を申立てる方法です。この方法によれば、認知症の相続人に代わって正常な判断能力を持つ成年後見人が遺産分割協議に参加して、有効な協議を成立させることができます。

この際、他の相続人が成年後見人になることができますが、1人の相続人が1人二役のような真似は、後見開始の審判を受けた相続人の利益を害する恐れがあり、そのような遺産分割協議は無効となってしまいます。

この場合には、さらに全くの第三者である特別代理人を選任する必要があります。これは二度手間のように感じますが、最初から共同相続人以外の第三者を成年後見人に選任すると、その成年後見人に対して報酬を支払う必要が出てきます。

共同相続人間の関係が円滑であれば、その誰かが成年後見人になったうえで、遺産分割協議のためだけの特別代理人を別途選任する方が長い目で見て負担が少ないでしょう。

遺産分割協議の状況を録音、録画する

判断能力に疑いのある相続人について、日常会話が問題なくできる程度など、判断能力の低下の程度が限定的な場合、成年後見開始の審判の申立は負担が大きいこともあります。

その場合、遺産分割協議の状況を録音録画して、当該相続人が遺産分割の内容を十分に理解できることを証拠として記録しておくのがいいでしょう。

その際、

  • この話し合いが何のための話し合いなのか
  • 遺産の構成を簡単でいいので自分の言葉で話せるか
  • 個々の遺産の価値について最低限の理解を示せているかを確認

して、なるべく誘導にならないように、発言してもらうようにしましょう。

また、録音録画の時期を明確にするため、録画時に放映されているニュース番組を録画するなどで日付を確定できるようにしておきましょう。

安易な署名押印を求めない慎重な対応を

安易な署名押印を求めない慎重な対応を

相続人の1人について判断能力の低下が見られる場合に、それをいいことに、他の相続人が自分に有利な遺産分割協議書を作成して安易な署名押印を求めることは避けましょう。

特に被相続人の生前の生活状況と遺産分割協議の内容の乖離があると、遺産分割協議の無効確認を求める裁判が提起された時に、無効と判断される可能性が出てきます。

また、名前が書けないくらいに判断能力が低下している時に、代わりに別の人が代筆することはとてもリスクが高いです。遺産分割協議は、不動産登記を受け付ける法務局や預金の払戻しを実施する金融機関にコピーが保管されており、相続人なら誰でも閲覧できます。そのため、代筆は後から他の相続人に露見されて無効となってしまう可能性が高くなります。

まとめ

遺産分割協議が無効となってしまうと、自宅の相続登記もやり直しになり登記の申請費用が再びかかってしまうし、使ってしまったお金の清算なども考えると大変な労力です。

相続人の中に判断能力が低下している人がいる場合には、その対策は慎重に行い、成年後見開始の審判といった確実な手段を取ることを常に選択肢に入れておく必要があります。

可能であれば、判断能力が低下をしたご本人を同席したうえで法律相談を行うのがいいでしょう。

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