コラム
弁護士が解説!遺産分割交渉の進め方
2023.03.30
弁護士が解説!遺産分割交渉の進め方
船橋習志野台法律事務所の弁護士の中村です。
親や叔父叔母、あるいは,兄弟姉妹が亡くなり、相続の話し合いをしなければいけないが、様々な事情で遺産分割の交渉が進まないことがあります。
この場合、当然、弁護士へ相談することが第一に考えられます。
その先、弁護士へ交渉を任せるべきか、あるいは、引き続き自力で交渉を進めるべきか、弁護士へ任せたとして早めに調停に移行すべきか、判断に悩むところです。
本コラムでは、遺産分割の交渉の際弁護士へ依頼すべきか、調停をすべきかについて解説をしたいと思います。
目次
遺産分割交渉を弁護士へ依頼すべきか否か
弁護士への相談の必要性が低い事案
まず、弁護士へ相談、依頼すべき必要性が低い相続としては、相続人が同一両親のもとでの兄弟姉妹が2,3人以内で、なおかつかつ、遺産の多くを預貯金が占め不動産が自宅の土地建物だけという事案です。
これは、話し合いの当事者が親密な関係にあり、なおかつ分けるべき遺産も金銭が中心で等しく分けることがしやすいからです。
弁護士へ相談、依頼すべき相続はこうした要素とは逆の事例ということになります。
弁護士への相談の必要性が高い事案
人間関係の側面
下記のように親族としての関係が乏しかったり、関係する人数が多くなってしまいどのように進めればよいか困ってしまう場合は弁護士への相談をおすすめします。
- 叔父叔母が被相続人となり、従妹同士が共同相続人となった場合
- 共同相続人となっている兄弟姉妹が他界しており、その下の世代も相続人として含まれる場合
その他にも介護への貢献や逆に親からの援助などで、生前の親子関係を不均衡に感じていた兄弟姉妹が法定相続分通りの遺産分割に納得いかずに、自己の権利を主張する場合も弁護士へ相談、依頼をすべきパターンでしょう。
他の相続人の住所が分からない場合
単純に他の相続人の住所が分からない場合も、弁護士へ相談、依頼すべき事例です。
弁護士は依頼を受けた案件の解決のために戸籍や住民票を調べる権限があり、そもそも住所や連絡先が分からない相続人がいる事例では弁護士への依頼が解決の端緒となります。
財産の側面
財産の側面からみると、遺産の構成が等分に分けにくい場合です。
典型例は不動産が遺産の多くを占め、それが農業など家業で使われている場合です。
遺産を後継者1人に集中させるのが事業承継にとっては望ましいですが、民法では均等に相続するのが原則。そのため、後継者以外の相続人が権利主張をすれば、事業承継がうまくいかず相続が紛争に発展しやすくなります。
調停を申し立てるべきか否か
弁護士へ依頼をする場合、弁護士から調停を勧められる場合もあります。
弁護士からすれば、調停の方が着手金が高いし相続人の人数が多い場合には、調停になって期日ごとの対応の方が弁護士としては楽といえます。そのため、弁護士が調停を勧めるからといって、必ずしもそれがベストの手段とも言い切れません。
通常は、任意の交渉から着手してそれが上手く行かないときに調停へ移行します。
では、裁判外の交渉を待たずに、いきなり調停を申し立てた方がいいのはどのような場合でしょうか?それは、弁護士へ相談する前の段階で一部の共同相続人と連絡が取れないことが明らかな場合が挙げられます。
電話や手紙で返事が来ない場合
具体的には電話だけでなく手紙を送っても返事が来ない場合です。
こうした場合は、遺産分割に協力しない姿勢が明らかなので、任意の交渉で待つ分だけ時間の無駄でしょう。また、相続人の1人が法定相続分より多くの権利を主張しその方針が変わる見込みがない場合です。
例えば寝たきりの親を5年や10年にわたって在宅で介護していた相続人は遺産分割でその報いを受けたいと思うことが珍しくありません。
一方、他の相続人は介護の苦労を数値化するなど目に見える形で提示されないため、「同居していたのだから親の世話をするのが当たり前」といった感覚があります。
こうした大きな認識の違いは、弁護士が介入したというだけでは、埋め合わせができず、結局は調停を申し立てることになる事が多いです。
調停に頼らず、任意の交渉をつづけたほうが良い場合
逆に調停に頼らず、粘り強く任意の交渉を続けた方がよいケースもあります。
それは、弁護士へ依頼をする前の段階で、話し合いが継続しており、合意できている項目と争っている項目が明確になっている場合です。
こうした状況で安易に調停を申し立てると、これまで合意した項目も白紙撤回になってしまい、交渉が最初からやり直しということになってしまいます。
その他、調停や審判になってもゴールが見えない場合も、調停を申し立てるだけ無駄という結果になることもあります。
遺産のほとんどが不動産であり、相続人が所有する建物が複数の場合
例えば、遺産のほとんどが不動産を占めており、しかも、相続人が所有する建物が複数存在するケースを考えましょう。
相続人が所有する建物を他の相続人が一方的に撤去請求をすることはできないし、調停、審判がまとまらずに競売になったとしても、建物が立ったままでは、誰も買い取ることができず、全く話が進みません。
このようなケースでは、無理して解決をするより建物が古くなり所有している相続人自らが解体するのを待つという判断も必要となってきます。
遺産分割交渉の早期解決の特効薬はなかなかない
本コラムでは、遺産分割の交渉の際弁護士へ依頼すべきか、調停をすべきかについて解説をいたしました。
弁護士へ相談、依頼するようなケースは親族同士の話し合いが進まず、遺産分割の交渉にある程度時間を要することが前提となります。
弁護士への相談、依頼は解決へ向けた糸口と捉え、そこから順を追って解決に向かっていくことが大切です。
判断に困った場合は一度弁護士への相談してみるのもよいでしょう。