コラム

【裁判例から考える】遺言書の効力と遺言者本人の意思能力

2024.07.23

【裁判例から考える】遺言書の効力と遺言者本人の意思能力

【裁判例から考える】遺言書の効力と遺言者本人の意思能力

船橋習志野台法律事務所の弁護士、中村です。

高齢の親が亡くなり、遺産分割協議を進めていると、突然誰かが遺言書を提示してくることがあります。遺言書の内容によっては、他の相続人にとって不利な場合もあり、その真偽を判断するのは難しいものです。

特に、遺言書作成時に高齢の親が病気や入院をしていた場合、意思能力を理由に遺言書の効力が争われることが少なくありません。

そこで、本記事では、意思能力を理由に遺言書の効力が争われた裁判例を2つ取り上げ、解説します。

遺言書が有効とされた事例

事例1|右半身麻痺の遺言者が作成した自筆証書遺言

自筆照明遺言

この裁判例では、90歳の遺言者が、高血圧性脳症で意識不明となった後、入院中に意識が回復し、右半身麻痺の状態になったにもかかわらず、作成した自筆証書遺言が有効とされました。

有効と判断されたポイント

  • 退院時点での医師の診断で意思能力に問題がないとされていたこと
  • 遺言者本人の筆跡であることが確認されたこと

入院や後遺症があっても、判断力に影響を与えていない場合は遺言書が有効となる可能性があります。

事例2|意識不明となった入院患者が翌日に作成した公正証書遺言

入院している患者

この裁判例では、遺言者が公正証書遺言を作成する予約をした後に、突如意識不明となり入院しました。その後、意識が回復した翌日に、公証人と証人が病院に出向き、公正証書遺言を作成しました。

遺言書作成当時の遺言者の意思能力について、医師2人から異なる意見が出されました。

しかし、裁判所は、以下の点を理由に、遺言書の有効性を認めました。

有効と判断されたポイント

  • 公証人や立会証人が、遺言者が意思能力を持って遺言書を作成したと証言していること
  • 遺言書の内容が簡明であること

この裁判例は、医師の見解が対立していたにもかかわらず、公証人や立会証人の証言に証言の信用性を弾劾する具体的な事情を主張立証できなかったため、有効と判断されたと考えます。

しかし、遺言書の内容が複雑であれば、公証人・立会人の証言の信用性に疑問が生じて、医師の見解も対立していることから意思能力が万全でないと判断され、遺言が無効と判断される可能性もあったでしょう。

遺言書が無効とされた事例

事例1|老人ホーム入所中に作成された公正証書遺言

遺言書作成を行う老人

この裁判例では、90代の被相続人が老人ホームに入所中に作成した公正証書遺言が無効とされました。被相続人は、認知症の診断を受けていましたが、医師による詳細な診察や検査は行われていませんでした。

裁判所は、以下の点を総合的に判断し、被相続人に意思能力がなかったと認定しました。

無効と判断されたポイント

  • 遺言内容の不合理性
  • 作成経緯の不自然さ
  • 老人ホームの介護記録

遺言内容の不合理性

老人ホーム入所前に交流がほとんどなかった子ども時代の友人に、不動産35筆を含む全財産を遺贈するという内容が、被相続人の状況やこれまでの財産管理方法などを考慮すると不自然であると判断されました。

作成経緯の不自然さ

全財産を受け取ることになった友人に遺言書作成を働きかけてから、わずか5日で実印の改印届けまでして性急に作成したことがあまりに不自然と判断されました。

老人ホームの介護記録

医学的判断意外にも、介護記録等から被相続人が意思疎通に困難があったことが伺えました。この裁判例は、一審、二審ともに遺言書の無効を認めていますが、医学的判断なくして

公正証書遺言の無効を認めた珍しい事例と言えます。

遺言書作成の経緯や内容が極めて不自然であることを主張立証できたことが、無効の判断を導いた決定打となりました。

事例2|脳梗塞の後遺症がある遺言者が作成した遺言書

この裁判例では、脳梗塞の後遺症による認知症の影響で意思能力が十分にないと判断されたため、公正証書遺言が無効とされました。

無効と判断されたポイント

  • 脳梗塞の後遺症
  • 後遺症の悪化
  • 意思能力の低下

被相続人は、脳梗塞発症から8年後に公正証書遺言を作成しました。しかし、遺言書作成の1週間後に後遺症が悪化して入院。

さらに、通院記録からは、遺言書作成の1年ほど前から単独での通院ができなくなっていたこと、遺言書作成の5ヶ月ほど前から物忘れが顕著になり、入院直前には異常な精神状態になっていたことが伺えました。

これらの事実を総合的に判断した結果、裁判所は、被相続人は遺言書作成当時、脳梗塞の後遺症による認知症の影響で意思能力が十分になかったと認定し、遺言書を無効としました。脳梗塞の後遺症が長期間継続している事実を前提に、医療記録から意思能力がないことを立証できた遺言無効の裁判例の典型と言えます。 

まとめ

遺言書の有効性をめぐる裁判では、被相続人の意思能力が重要な争点となります。意思能力を判断する際には、医学的判断が重要な参考資料となりますが、法的判断においては、医学的判断以外にも様々な要素を総合的に考慮する必要があります。

遺言書の効力は、あくまで法的判断なため、遺言書作成時の意思能力を判断するには、医師による診断だけでなく、介護記録や通院記録などの客観的な証拠も重要となります。

公正証書遺言は、公証人や証人の立会いの下で作成されるため、形式的な要件を満たしていると判断されます。そのため、遺言無効確認訴訟を提起しても、有効と推認されやすい傾向があります。しかし、有力な証拠に基づいて合理的な理由を主張することができない場合、遺言無効確認訴訟の提起については慎重になるべきでしょう。

公正証書遺言の効力について疑問がある場合は、弁護士に相談することをおすすめします。弁護士は、個々の事案の詳細な状況を分析し、適切なアドバイスを行うことができます。

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