コラム
相続放棄後の借金の取り立ては多くの場合無効!注意点も解説
2022.12.16
相続放棄後の借金の取り立ては多くの場合無効!注意点も解説
船橋習志野台法律事務所の弁護士の中村です。
相続放棄の依頼をされる方の多くが親の借金を引き継ぎたくないという動機があります。そして、実際に相続放棄をして裁判所から届いた相続放棄受理通知書のコピーを債権者へ送付することで、借金の取り立てがなくなったり、貸金請求訴訟の裁判を取り下げるといった対応がなされます。
しかし、まれに相続放棄後にも借金の催促を求める通知書等が来ることがあります。本コラムでは、相続放棄後の借金取り立てへの対応、相続放棄後でも借金を返済しなければならない可能性について解説します。
目次
相続放棄後の借金の催促の事情
債権者は相続放棄を知らない
相続放棄後の借金の催促は、催促をしている債権者の方で相続放棄の事実を知らないことが多いです。なぜなら、借金の催促は、債権者側の債権管理の手順で、破産や消滅時効など債権の消滅が確定していないものについては、形式的に書面を送るからです。
借金をした本人が死亡していれば、相続人を調査して子や兄弟姉妹などの親族に催促の書面を送ります。
その際、相続放棄をしているかどうかを事前に確認することは無く、相続放棄の通知は相続放棄をした相続人本人しか通知されないため、債権者の側で相続放棄を知る機会はありません。
債権者から催促がきても慌てずに
相続放棄の通知は、相続放棄をした相続人本人しか通知されないため、相続放棄後に債権者から借金の催促が来ても慌てることはありません。催促の書面に記載されている問い合わせ先に相続放棄受理通知書のコピーを送付すれば、ほとんどのケースでは借金の催促が止まります。
相続放棄受理通知書が届くことで、債権者の側で請求する権利を失っていることが確定するからです。
連帯保証人になっている場合、相続放棄後も借金の支払い義務がある
相続放棄後であっても借金の催促が来てしまう例としては、子が親の借金の連帯保証人になっている場合があります。この場合は、相続放棄をして親から借金を引き継ぐことがなくなっても、子自身が連帯保証人として借金の支払い義務があるため、相続放棄をしても返済義務を免れることができません。
連帯保証人になっている場合、子が実印を押印して印鑑登録証明書を提出していることが多いので支払い義務を免れることは容易ではありません。自分が知らない間に、親が勝手に子の実印を押して印鑑登録証明書を差し出したというような特殊な例であれば、連帯保証契約が無効となって支払い義務がなくなる可能性はあります。
また、親が亡くなってから5年以上経過してからでの催促であれば、消滅時効を主張して連帯保証に基づく支払い義務を消滅させるという方法もあり得ます。連帯保証人だからという理由で借金の催促を求められた場合、まずは連帯保証の契約書と印鑑登録証明書のコピーの交付を求めましょう。
親の借金は債権者がこれらの書類を提出しない限り、連帯保証契約は存在せず、支払い義務がないということになります。
相続放棄の効力自体を否定してくる場合も
相続放棄の受理通知書のコピーを送付しても、なお債権者が借金の催促をしてくることがあります。
その理由としては、被相続人(親)の死亡後3か月以上経過してからの相続放棄は無効である、遺産を取得したので相続放棄は無効であるといったものです。
死亡後3か月以上経っているから無効と主張された場合
まず、前者の主張に対しては、家庭裁判所が審査をしているため、事後的に無効となることはほとんどありません。3か月の起算点を親が亡くなった時点ではなく、親の借金を知ってからとの解釈で相続放棄の申述が受理された場合には、事後的に無効となる場合もあり得ます。
相続放棄が受理される前にも、相続人に借金催促の通知を出していたことが証明された場合、相続人が他の少額の債権者の借金を返済をしているなどして3か月以上前の時点から親の借金の存在を前提とする行動を取っていた場合があります。
遺産を取得したので無効と主張された場合
遺産を取得したと主張する場合は少し注意を要します。
たとえ、親名義の預金や現金を使ったとしても、死亡するまで入院していた病院の未払い医療費、賃借していたアパートの家賃など死後処理のうえで必須の経費の支払いに充当していれば、親の遺産を取得、処分したことになりません。
しかし、葬儀費用や親自身の借金などの返済に亡くなった親の預金を使ったり、親名義の自動車の名義変更をして自分で使ってしまうなどすると、遺産を処分をしたとみなされて、相続放棄が許されなくなる場合があります。
生命保険金の受領と相続放棄
親が借金をしていても、生命保険金をかけていてその保険料について滞納することなく死亡した場合、子が受取人に指定されていれば、当然子が生命保険金を受け取ることができます。生命保険金は遺産とは区別されて子自身の固有の財産とされることから、生命保険金を受け取っても遺産を取得・処分をしたことにならず相続放棄ができます。
では、債権者が生命保険金を借金の返済に充当すべきと主張したら、返済しなければならないでしょうか?
原則、相続放棄が有効である以上、生命保険金を受け取った子は保険金を返済に宛てる必要がありません。
しかし、債権者からすると自らの債権の弁済に充当すべき親の資産が保険料に充当され子どもへ財産が移転されてしまったことに納得できないこともあるでしょう。
そのため、親が契約した生命保険が最低限の医療保障など日常生活上の必要を超えて蓄財に該当する場合、保険金を遺産と同視して相続放棄が無効とされる可能性もあります。
相続放棄前の遺産の扱いは慎重に
相続放棄をしても、後からそれが無効になるリスクの高い行為は遺産の不用意な処分です。相続放棄を徹底するためには、遺産に手を付けないのがベストです。特に、自動車など古くて遺産としての価値がないと決めつけ、親から自分へと名義変更してしまうと遺産の処分とみなされる恐れがあります。
それでも、緊急の必要性がある場合には遺産を使用することもあるかもしれません。
幣事務所ウェブサイトのコラムは相続放棄の記事が多くあり、遺産の処分についても解説してありますので、まずはご参照ください。難しい事例となる場合には、有料の法律相談にて個別にアドバイスをすることも可能です。お気軽にお問い合わせください。