コラム
遺言書の偽造が疑われる時の適切な対応は?未然に防ぐ方法と併せて解説
2022.01.28
遺言書の偽造が疑われる時の適切な対応は?未然に防ぐ方法と併せて解説
亡くなった家族・親族が残した遺言書が偽造されているかもしれない、と気づいたら、大半の人が戸惑うはずです。中には「一体なぜそんなことに」とパニックになってしまう人もいるかもしれません。
しかし、大切なのは落ち着いて冷静に対応することです。ここでは、遺言書の偽造が疑われる時の適切な対応と、偽造を未然に防ぐための対応について解説します。
目次
遺言書の偽造の立証方法
筆跡鑑定で立証する
遺言書の偽造が疑われる際、立証するための手段として一般的に使われるのが、筆跡鑑定です。
筆跡鑑定を行い「本人が書いていない」ことが立証できれば、その遺言書は無効になります。実際に筆跡鑑定を行う場合は、遺言書を書いた人=遺言者の日記や手紙などの筆跡と比較するのが一般的です。
ただし、筆跡は年代や当日の体調など、様々な要素に左右されます。健康な時は字が上手だった人でも、脳梗塞などの病気により手がうまく動かせなくなった場合、上手に書けなくなることは往々にしてあるはずです。
そのため、筆跡鑑定ではどちらともとれる場合もあることに注意しましょう。
カルテや介護日誌を使う
筆跡鑑定だけでは決め手にならない場合は、カルテや介護日誌を証拠として提出することがあります。
仮に、遺言作成当時、認知症が進んでいたり、病気の状態が思わしくなかったのであれば、理路整然とした文章をきれいな字で間違いなく書くのはかなり難しいはずです。
このようなケースでは、遺言書は他人が書いたと判断される可能性が高くなります。
周囲の話を聞く
生前、遺言者が周囲とどんな人間関係を築いていたかも、重要な証拠になります。
例えば「子どもが3人いて、長男とは折り合いが悪かったが、次男と三男とは折り合いが良かった」遺言者を考えてみましょう。この場合、長男に遺産を多く与える内容になっている遺言書になることは、通常では考えにくいです。どちらかといえば、次男と三男に多く与える内容になっている方が自然でしょう。
つまり、周囲と築いていた人間関係次第で、遺言書の内容が変わることもありうるので、偽造を立証する際の重要な情報となります。
遺言書を偽造した場合に問われる罪とは?
遺言書を偽造した者は、刑法上の罪に問われます。
本来作成する権利がない者が、被相続人の名前をかたって遺言書を偽造することは、有印私文書偽造罪(刑法159条1項)にあたるためです。3ヶ月以上5年以下の懲役が科されるため、注意しましょう。
また、刑法上の罪ではありませんが、相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者は相続人になれません(民法891条5号)。つまり、遺言書を偽造した人は、相続人にもなれないため、遺産も受け取れなくなります。
ただし、遺言書を偽造した人(欠格事由に該当する者)が、被相続人の子ども、兄弟姉妹であった場合で、さらに自分の子どもがいた場合は、代襲相続が認められます。
つまり、遺言書を偽造した人の代わりに、その人の子どもが相続人になるため、遺産を受け取れるのです。
偽造を防ぐための方法
公正証書遺言
遺言書の偽造を巡ってトラブルが起きやすいのは、その遺言書が自筆証書遺言だった場合です。つまり、遺言者が自分で手書きで書いて、自分の部屋の引き出しなどの任意の場所に保管していた場合、偽造などのトラブルが起きやすくなります。
実際に相続が発生した(遺言者が亡くなった)際に、裁判所で検認を行った際に、偽造の可能性があればさらに調べると考えましょう。
そして、遺言書の偽造や紛失のトラブルを防ぐ上で有効な手段の1つが、公正証書遺言です。公正証書とは、遺言者が自ら証人とともに公証役場に出向き、遺言内容を口述して、公証人に筆記してもらい作成する遺言書のことです。
完成した遺言書の原本は公証役場で保管されて、正本と謄本が遺言者に渡されます。いわば「プロが作ってくれる上に、自宅とは別の場所で保管してもらえる」遺言書です。 偽造や紛失のリスクが極めて少ないことから、相続が発生した際の家庭裁判所における検認手続きも必要ありません。
ただし、デメリットもあります。まず、証人が2人必要です。誰でも良いわけではなく、「未成年者、遺言者の推定相続人、遺産を受ける人(受遺者)とその配偶者、子・孫・父母・祖父母などの直系血族」は証人になれません。
つまり、家族以外に信頼できる友人・知人でないといけないため、人選からして難航を極める人もいるでしょう。
さらに、遺言書に記載する財産の合計額に応じた手数料がかかります。
自筆証書遺言の保管制度
「お金と手間の面で、公正証書遺言はちょっと難しい」と思った場合は、自筆証書遺言の保管制度を使うのも1つの手段でしょう。
これは、2020年7月から始まった制度で、生前に自分で作成した自筆証書遺言を法務局に持って行き手続きをすると、原本を保管してくれる上に、画像データ化もしてくれる制度です。
相続が開始された後は、相続人に遺言書が保管されていることのお知らせ(関係遺言書保管通知)をしてくれたり、相続人からの遺言書の閲覧の請求に応じてくれたりと、必要なフォローが受けられます。
また、法務局に保管されている以上、偽造・紛失のリスクが極めて少ないことから、公正証書遺言の場合と同様、相続発生時の家庭裁判所による検認手続きは必要ありません。
家族がバラバラにならないためにも
遺言書の偽造が疑われる状況が発生するのは、遺された家族にとっては多大なストレスになります。これを防ぐためには「偽造をする人なんていない」と思い込むのではなく、仕組み上、遺言書の偽造がほぼ不可能な状態にした方が良いでしょう。
予算と証人のあてがあるなら公正証書遺言、難しい場合でも自筆証書遺言の補完制度を利用するなど、方法はちゃんとあります。自分に合った方法を考えて、早めに準備しましょう。