コラム
相続関係者が海外居住している場合の相続放棄
2022.02.04
相続関係者が海外居住している場合の相続放棄
船橋習志野台法律事務所の弁護士の中村です。
今回のコラムは、被相続人や相続人が海外に居住している場合の相続放棄です。海外に関係者が住んでいる場合でも、日本の家庭裁判所に相続放棄の申述ができるのかを解説いたします。
幣事務所も、時々、海外在住の方からお問い合わせを受けますし、経済のグローバル化が進んで30年以上が経つ今の時代、相続の国際化も進んできています。
目次
被相続人(亡くなった方)が海外居住の場合の相続放棄
相続放棄は、被相続人が死亡することによって、初めて家庭裁判所に申述(申立)をすることができます。なので、被相続人が死亡した時点で、日本に住んでいたのか、海外に住んでいたのかで、日本の家庭裁判所を利用できるかどうかの重要な分岐点になります。
日本で被相続人の住民票除票を取得できれば相続放棄が可能
家庭裁判所の管轄について規定した家事事件手続法には、被相続人が死亡した時点で日本に住所があれば、相続人は日本の家庭裁判所に相続放棄の申述ができると規定しています。
「住所がある」とは民法上は「生活の拠点」と規定されています。ただ、書類でそれを証明するのは住民票になるので、実質的には住民票の登録がある場所が住所といえます。
そのため、日本国内の市町村で発行する住民票除票を取得できれば、日本の家庭裁判所を利用して相続放棄ができます。
そうすると、海外旅行中に死亡した場合や海外駐在中であっても日本に住民票を登録したまま死亡した場合には、日本に住所があると扱われます。
被相続人の居所が日本国内にある場合も相続放棄が可能
家事事件手続法では被相続人の「居所」が日本国内にある場合にも日本の家庭裁判所を利用できると規定しています。
「居所」とは民法上、住所が知れない人の住所を「居所」として扱います。住所が知れない、つまり、生活の拠点を一つの場所に特定できないことを意味します。
例えば、世界各地を転々として特定の国に家族がいるなどの拠点がない状況で日本に一時帰国してホテル滞在中に死亡した場合には日本に居所があるといえます。これが、一時帰国を終え再度、海外へ旅立ってから死亡した場合には、日本に何らの生活拠点がなく、実際に居場所も海外であるため、日本に居所も住所もない状態となります。
日本の裁判管轄が認められない場合
被相続人の住所が海外にあると日本の家庭裁判所に相続放棄の申述ができません。
これまで述べたように住所とは特定の場所となる生活の拠点のことですから、海外に住所があるとは、海外に自宅を所有、賃貸している、家族ごと海外で暮らしている、海外の特定の場所で勤務しているという状態になります。
このような状況で海外で死亡した場合には、日本の裁判管轄が認められず、被相続人が住所を持っていた海外の家庭裁判所に相続放棄の申述をすることになります。
そうなると、管轄が認められる国の法律にしたがって手続きをする必要があるし、日本語の使用を認められないので、日本の裁判管轄が認められないことで一気に相続放棄の難易度があがってしまいます。
相続人が海外居住の場合の相続放棄
相続人が海外に住所があったとしても、被相続人の住所が日本にある限り、日本の家庭裁判所で相続放棄の申述ができます。
つまり、共同相続人全員が海外に住所を持っていたとしても、被相続人が日本に住所がある状態で死亡すれば、日本の家庭裁判所に相続放棄の申述ができます。
海外からの相続放棄申述の注意点
相続人が海外に居住していても日本の家庭裁判所に相続放棄の申述ができますが2点、注意点がございます。
1.相続人自身が必要書類を用意する
ただ、その場合でも、被相続人の戸籍謄本・住民票除票や申述人本人の戸籍謄本などは海外に居住する申述人自身で入手する必要があります。
これがやっかいで、請求書の用紙は自治体ホームページでダウンロードできたとしても、手数料の支払いについては、現金(日本円)を国際郵便で送付するか、国際返信切手券といった特殊な決済方法を用いる必要があります。
そのため、日本国内に親族等がいない場合、戸籍謄本等の必要書類の入手に非常に手間がかかってしまいます。
2.相続放棄受理通知書の受理までに時間がかかる
相続放棄をするための必要書類の入手ができたとしても、家庭裁判所から相続放棄受理通知書を海外への送達するのに時間がかかります。
相続放棄の受理通知は日本の家庭裁判所の決定である以上、国家主権の問題から海外への送達については、領事館や外務省を通じたものとなります。
これらの手続きは裁判所でやってくれるのですが、数か月から1年程度の時間を要することが多いです。特に領事館経由の送達に対応できない国ついては、8か月から1年程度の時間を要することになります。
【まとめ】海外に当事者が居住する場合の相続放棄の対応方法
日本の裁判所の管轄が認められないと非常に手続きが難しくなります。なので、被相続人が海外で死亡した場合でもなんとか日本の裁判管轄を認める工夫を尽くすことが大事です。
海外で死亡しても日本に住民票があれば日本の裁判管轄が認められます。住民票が残っていなかったとしても、単身赴任中であれば家族が居住する日本を生活拠点と主張することで日本の管轄が認められる余地があります。
また、諸外国を転々としている状況で亡くなった場合には、日本の最後の住所地(住民票の除票の登録住所)を根拠に管轄が認められることがあります。こうした日本の管轄を認めさせる工夫は一般人には困難ですので、弁護士への相談が重要です。
次に、海外在住の相続人が相続放棄(被相続人が日本で死亡したことが前提)をするときは、日本の弁護士へ依頼するのがもっとも簡便です。
日本の弁護士であれば、戸籍謄本や住民票は職務上の請求で容易に入手でき、そのまま、相続放棄の手続きも代理できます。親族というだけでは相続放棄の手続を代理する資格がないので、弁護士へ依頼するメリットが大きいです。
さらに、送達先も国内の依頼した弁護士の法律事務所になるので、海外送達の手間がそのまま省くことができます。
こうしてみると、相続の当事者が海外に居住している(死亡した)場合には、弁護士へ相談する必要性が高いといえます。