コラム

共同相続人のうち一人と連絡が取れない場合の遺産分割協議

2024.02.26

共同相続人のうち一人と連絡が取れない場合の遺産分割協議

共同相続人のうち一人と連絡が取れない場合の遺産分割協議

船橋習志野台法律事務所の弁護士の中村です。相続の相談で多いのが、相続人のうち一人と連絡が取れない、どこに住んでいるのか分からないため、話し合いができないというものです。

後者のどこに住んでいるか分からない場合には、弁護士へ依頼すれば住民票を調査して住所を特定することができます。

そこで、本コラムでは、住所が分かっているが連絡が取れない場合について説明します。

連絡が取れない相続人が「不在者」であるか否かで、対応が大きく異なる

連絡が取れない相続人が「不在者」であるか否かで、対応が大きく異なる

遺産分割協議が必要な場面というのは、共同相続人が各自で遺産について共有持ち分を持つ状態を意味します。つまり、連絡が取れなくなっている相続人も遺産に対して権利を持っている状態になります。

そして、民法には不在者財産の管理の制度が規定されており、連絡が取れない相続人が「不在者」であれば、他の相続人が家庭裁判所へ不在者財産管理人の選任申立をして、選任された不在者財産管理人が連絡の取れない相続人に代わって遺産分割協議に参加します。

これに対して、単に連絡が取れないだけなら、家庭裁判所に遺産分割調停を申立をして、当該相続人が欠席のまま、最終的に審判へ移行して、裁判官が言い渡す審判で決着させることができます。

「不在者」と「単に返事しない者」の区別

「不在者」と「単に返事しない者」の区別

上記で説明した通り、当該相続人が欠席のまま、最終的に裁判に移行した場合、裁判官が言い渡す審判で決着させるので、民法上の「不在者」に該当するか、単に他の相続人から連絡をしても返事をしないだけで所在が分かっている者の区別が重要となります。

民法の規定では「不在者」とは、「従来の住所又は居所を去った者」としています。住所は一般的に住民票上に記載されている住まいですが、住民票とは別の場所であっても電気、水道、ガスを通して毎日、寝食の拠点としている住居も住所となります。

居所とは、住所のよう毎日の寝食の拠点とまでは言えないが、一定の期間継続して居住している場所で一応の拠点といえる場所(具体例として、ホテルや寮での長期滞在、長期出張先での滞在、平日限定での単身赴任の拠点など)を意味します。

区別のカギは「生活の拠点を特定できるかどうか」

そうすると、「不在者」と「単に返事をしないだけの者」の区別は、生活の拠点を特定できるかどうかということが最も重要な要素となってきます。

例えば、住民票上の住所に内容証明郵便を送って受領が確認できれば、住所地で生活していることが明らかなので、「単に返事をしないだけの者」に該当します。

仮に内容証明郵便を受け取らず保管期限の経過で差出人に戻ってきた場合でも、所在調査(電気・ガス・水道メーターの調査で生活に必要な量の使用をしているか、郵便ポストの状況、車庫の車の有無、洗濯物の有無など、生活の痕跡が対象とする調査)の結果、居住が確認できれば、やはり、「単に返事をしないだけの者」になります。

居住が確認できない場合は「不在者」の可能性が高い

これに対して、住民票の住所地での居住実態が確認できない場合には、「不在者」の可能性が出てきます。もっとも、住民票上の住所地に居住していないだけで直ちに「不在者」になるわけではありません。

勤務先の関係者、知人・友人等に当たって現在の居所を調査しても生活の拠点が判明しない場合に、初めて「不在者」に該当します。

例えば、大規模自然災害や航空機や船舶の事故等に巻き込まれてそれ以降、連絡が取れなくなった相続人は、新しい拠点で生活しているとは想定し難く、「不在者」に該当します。

その次に家庭内の不和で家出をして連絡が取れなくなった者が「不在者」に該当しやすいです。

家出の場合には、7年間の経過で失踪宣告の申立をして死亡したと扱うことができるので、7年以上経過して失踪宣告をしない場合には「不在者」に該当する可能性が高いです。

その他、調査を尽くしても勤務先、友人、知人が判明せず生活の拠点を特定できない場合には「不在者」に該当しやすいでしょう。

「単に返事をしないだけの相続人」との遺産分割協議

「単に返事をしないだけの相続人」との遺産分割協議

 この場合には、家庭裁判所へ遺産分割の調停の申立をして、仮に、当該相続人が出席をすれば、調停で合意を目指します。

欠席を続ける場合には、審判へ移行して裁判官が審判という命令を言い渡してそれぞれの遺産の帰属先を決定します。概ね、2回連続で何ら連絡なく欠席すれば、裁判所としては審判を視野に入れて手続きを進めることになります。

当該相続人の欠席が続く場合、出席をした相続人同士で協議がまとまりそれが、欠席した相続人の法定相続分を害するものでなければ、出席相続人間で協議がまとまり次第、速やかに審判へ移行して、その合意をベースにして審判が言い渡されます。

出席相続人同士で協議がまとまらない場合には、これ以上話し合いをしても出席者同意の合意ができないと裁判所が判断をした段階で、審判へ移行します。

出席相続人の誰かが寄与分や特別受益を強行に主張してこれを撤回しないことになれば、審判へ移行することになります。この場合、各相続人が提出する資料に基づいて、法定相続分をベースにしながら、遺産の帰属を決定する審判を言い渡します。

不動産が遺産の多くを占める場合

遺産の多くを不動産が占める場合、連絡が取れない相続人が共有持ち分を持つと遺産分割後の管理が困難になります。

そこで、出席した相続人らが欠席相続人の法定相続分に相当する代償金を分担することで、欠席相続人を共有持ち分から外してもらう審判を言い渡してもらうことも可能です。

不動産の価値が高く代償金を負担できない場合には欠席相続人を含めて共有になってしまうことは避けられません。そうした場合には賃貸に出すなどして、連絡が取れないままでも管理できる方法を模索するしかありません。

「不在者」に該当する場合

共同相続人の一人が「不在者」に該当する場合、他の相続人が申立人となって不在者財産管理人を選任する必要があります。不在者財産管理人選任申立をするには、不在者の戸籍謄本、戸籍の附票の他に、不在の事実を証明する資料を提出する必要があります。

これらの資料とは、住民票上の住所の所在調査の報告書、警察署への家出人捜索届の受理証明書、直近の勤務先が判明している当該勤務先からの在籍有無の照会の回答文書等があります。そして、遺産に関する資料や不在者固有の財産に関する資料も可能な限り集めて提出します。

このような資料を提出して家庭裁判所が「不在者」該当性を認定すれば、おそらく、弁護士が不在者財産管理人に選任されます。そして、選任された不在者財産管理人が参加して遺産分割協議を実施します。

家庭裁判所の許可を得る必要がある

ただ、遺産分割協議の内容について不在者財産管理人が自由裁量で合意することはできず、家庭裁判所の許可を得ないと合意ができません。許可の基準で最も重要なのは法定相続分を確保できていることです。

遺産の多くが不動産を占める場合、不在者以外の相続人が取得する遺産分割協議の案では、不在者に法定相続分相当額の代償金を交付する必要があります。この代償金は不在者財産管理人が管理することになります。

ただ、令和3年の民法改正で不在者の金銭財産を供託できることとなったので、不在者の財産が現預金のみとなれば、これを供託して不在者財産管理を終了させ、不在者の行方が分かった段階で供託金を取り戻してもらうことが可能となりました。

連絡が取れない相続人は極力生活の拠点を特定し、通常の遺産分割の調停・審判で解決することが望ましいでしょう。

まとめ

これまで述べたように、「不在者」であるか「単に返事をしないだけの者」との区別に明確な基準はなく、最終的には家庭裁判所の判断に委ねられます。

そして、「不在者」であることを証明するための資料の提出は、実際に住民票上の住所地に何度か足を運んで報告書を作成する必要があるだけでなく、不在者財産管理人の報酬相当額を捻出するために予納金を30万円から50万円、場合によっては100万円近くを納付する必要があります。

つまり、不在者財産管理人選任申立をしても典型的な不在のパターン(災害・事故等での行方不明、長期の家出)でないと、これが認められるか分からないうえ、認められたとしても、多額の費用がかかってしまいます。

さらに、不在者財産管理人にどのような専門職が選任されるか分からず、選任された不在者財産管理人が安易に調停での解決に頼ってしまうと、不在者財産管理人の選任、遺産分割の調停・審判と複雑な家庭裁判所の手続きが重なってしまうことも懸念されます。

そのため、連絡が取れない相続人についてはできる限り「不在者」として扱わずにすむように生活の拠点を探す努力をすべきでしょう。特に連絡がつく相続人同士で合意ができているなら、調停を申立をして連絡が取れない相続人が欠席のまま、スムーズに審判移行することが期待できます。

「不在者」かどうかの判断は難しく、また、連絡が取れない相続人を抱えた遺産分割協議はそれ自体難しいので、弁護士へ相談する必要性が高い事案です。

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