コラム

弁護士が解説!療養介護が寄与分として認められるケース

2024.04.19

弁護士が解説!療養介護が寄与分として認められるケース

弁護士が解説!療養介護が寄与分として認められるケース

船橋習志野台法律事務所の弁護士の中村です。

親が亡くなり、複数の子が相続するケースにおいて、介護を担った子が他の相続人より多くの遺産を取得したいと考えるのは自然なことです。しかし、法律上は必ずしも介護の貢献が相続分に反映されるわけではありません。

本コラムでは、介護と寄与分の関係について解説し、介護の貢献をどのように評価し、遺産分割に反映できるのかについて詳しくご紹介します。

介護と寄与分の関係:法律上の視点

介護は「寄与分」として評価される?

遺産分割において、介護の貢献を評価する制度として「寄与分」があります。寄与分とは、相続人が被相続人の財産の維持・増加に特別に貢献した場合、法定相続分よりも多くの財産を取得できる権利です。

しかし、寄与分は法律上の概念であり、感情的な主張とは異なるものです。介護が寄与分として認められるためには、以下の条件を満たす必要があります。

  • 被相続人が療養看護を必要とする状態であること
  • 通常期待される程度を越える特別な貢献であること
  • 寄与行為の結果として被相続人の財産を維持または増加させていること

介護が「寄与分」として認められるために必要なポイント

高齢女性の手を取る女性の手元

介護が寄与分として認められるためには、以下の3つの条件を満たす必要があります。

  • 被相続人が療養看護を必要とする状態であること
  • 通常期待される程度を越える特別な貢献であること
  • 寄与行為の結果として被相続人の財産を維持または増加させていること

介護を担った子が、その他相続人と相続の割合が同一あることに納得が行かないケースは少なくありません。

しかし、家庭裁判所が療養監護に対して寄与分を認めるのは、遺産の維持増加に貢献した場合だけであり、他の相続人より苦労したということで寄与分を認めることはありません。寄与分は他の相続人との比較で決まるのではなく、遺産に対する貢献度という絶対的な基準で客観性が強いものとなります。

介護の程度

寄与分として認められるためには、単に介護を行っただけではなく、要介護度や介護時間、専門知識や技術の必要性など、介護の程度を具体的に示す必要があります。

料理、洗濯、買い物、外出の付き添い、服薬管理の程度では、寄与分は認められません。

  • 要介護度: 被相続人の要介護度が上がるほど、介護の負担は大きくなります。
  • 介護時間: 一日の介護時間や、夜間の介護の有無なども考慮されます。
  • 専門知識や技術: 介護資格の取得や、専門的な知識や技術を活かした介護は、より高度な貢献と評価されます。

介護期間

介護期間の長さだけでなく、継続性も重要です。短期間であっても、毎日継続して介護を行った場合は、長期間の断続的な介護よりも高く評価される可能性があります。

介護による経済的損失

仕事や家事との両立による収入減や、介護用品購入費用などの経済的損失も考慮されます。

代替手段の費用

もし介護を行っていなかった場合、介護施設への入所費用やヘルパー利用費用が必要となった可能性があります。これらの代替手段の費用を算出することで、介護による貢献度をより明確に示すことができます。

介護以外の貢献

家業への従事や財産管理など、介護以外の貢献も寄与分として考慮される可能性があります。療養介護で遺産に貢献できる場合とは、同居している相続人による介護によって、被相続人が老人ホームを利用せずその費用を節約できた場合にほぼ限られます。

これらのポイントを踏まえることで、自身の介護が寄与分として認められる可能性を高め、遺産分割において正当な評価を得られるように準備を進めることができます。

寄与分認定を受けるためには要介護認定が重要

車椅子に座る高齢者が女性と向き合う写真

家庭裁判所の判断基準によると、要介護3以上の被相続人の在宅介護は、老人ホームの施設費用を節約できたとみなされます。そのため、寄与分を主張するためには、以下の2つのポイントを押さえることが重要です。

要介護認定を受けている場合

要介護認定は、介護が必要であることを客観的に証明する重要な資料となります。

要介護認定を受けていない場合

被相続人が要介護認定を受けたい無い場合、寄与分を認定される可能性は低くなります。しかし、以下のような状況であれば、認められる可能性はゼロではありません。

  • 要介護認定を受ける前に亡くなった場合
  • 認知症などにより、要介護認定を受けることが困難だった場合

要介護認定に代わる介護の必要性の立証資料として通院時の診療記録がありますが、通常は入院しないと生活自立度の記載がなされないため、入院の履歴がないと立証は厳しいと思われます。そのため、寄与分を主張したい場合は、まず被相続人の生前の要介護度を確認する必要があります。

要介護度が2以下の場合でも、認められる可能性は厳しく、相続人による介護がなければ在宅生活が困難であった事情を具体的に主張立証する必要があります。

介護による寄与分の算定方法と注意点

介護による寄与分が認められた場合、具体的にどの程度多くの遺産を取得できるのでしょうか?

介護による寄与分が老人ホームの施設費用の節約になるので、自宅近隣の施設利用料の月額を要介護認定3になってから亡くなるまでの月数を掛けてその金額を主張する相続人も珍しくありません。

介護による寄与分の算定方法

仮に老人ホームを利用していた場合に必要だった費用を算出する場合もありますが、特別養護老人ホームと有料老人ホームで金額が大きく異なる点や、近隣の高齢者施設の利用料をそのまま積算するのは介護の貢献度の評価としては不適切です。

多くの場合、介護による寄与分は、厚生労働省が定める訪問介護の介護保険報酬基準を参考に算定されます。要介護ごとに1日当たりの介護報酬が定められており、在宅介護を開始してから亡くなるまでの日数を掛け合わせることが多いです。

【厚労省が定める訪問介護の介護保険報酬基準】

  • 要介護3の場合: 1日あたり約8,000円
  • 家族による介護の場合: 1日あたり約5,000円程度が上限

介護の全期間を寄与分として認めることはあまりない

3年間の介護で全期間5,000円/日として600万円弱の寄与分が認められることは稀です。

主に下記のような理由があります。

  • デイサービス利用: 施設入所ではなくても、週3~5日デイサービスを利用している場合、相続人による介護は朝晩が中心となります。
  • 介護能力の推定: 例えば、要介護3以上の母親を健常な父親が介護できない場合、娘が実家に身を寄せて介護を担うケースでは、裁判所は父親も介護できたと推定し、寄与分を減額する傾向があります。

上記の考察を踏まえると、1日5,000円/日の高水準な寄与分が認められるのは、以下の条件を満たすケースのみと言えるでしょう。

  • 被相続人と2人暮らし
  • 介護を担う子は仕事を辞めて専念
  • 1日の多くの時間を介護に費やす

介護による寄与分の立証方法

療養介護による寄与分は、被相続人の介護によって節約できた老人ホーム費用を基準として算定されます。しかし、寄与分を認められるためには、適切な立証が必要です。

これらを取り寄せることで被相続人の身体の状況を具体的に把握できます。これに加えて入通院の診療記録があれば看護師等による患者(被相続人)の生活自立度の記載があることが多くこれも立証材料になります。

客観資料に加え、相続人自身の陳述も重要です。被相続人の生前の1日のスケジュールの流れを思い出しながら紙に書きだして、着替え、食事の介助、服薬管理、トイレ、入浴の介助、外出時の付添い、入院時の対応などを思い出しながら被相続人の身体の状況を具体的に記載することが望ましいでしょう。

こうした記録の入手、具体的な介護態様の書面化には弁護士によるサポートが不可欠でしょう。

まとめ

今回は介護と寄与分の関係について解説し、介護の貢献をどのように評価し、遺産分割に反映できるのかについて詳しくご紹介いたしました。

これまで述べてきたように一般の人が感情面を背景に考える寄与分と家庭裁判所の認定基準には大きな乖離があります。

そのため、家庭裁判所の認定基準を熟知している弁護士による代理人活動が不可欠です。また、立証活動も重要になるので、単に相続案件ばかり扱っている弁護士というよりは、民事裁判や刑事裁判の経験も豊富な弁護士の方が適しているでしょう。

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