コラム

親の介護に苦労した…遺産分割を多くしたい人に伝えたい3つのこと

2021.06.08

親の介護に苦労した…遺産分割を多くしたい人に伝えたい3つのこと

親の介護に苦労した…遺産分割を多くしたい人に伝えたい3つのこと

船橋習志野台法律事務所の弁護士の中村です。親が亡くなった遺産分割は残された子どもたちが等分に遺産を分配するのが原則です。ただ、子のうちの一人が親と同居して長年に渡って介護をしてきた場合、介護で苦労した分だけ、遺産を多く貰いたいと主張することが珍しくありません。

ただ、同居していない子らからすれば、親との同居で家賃や食費、光熱費などで得をしている、生前に親のお金を勝手に使っていると反論されることが多いです。そもそも、介護での苦労を数値化して金銭に評価し直すことは、不動産鑑定のような専門職が金額を明確にしてくれるわけでもなく、それ事態が難しいものです。

そのため、親の介護の貢献をどう評価するかは、遺産分割における典型的な争点であり、紛争の要因となることが多いです。そこで、本コラムでは、親の介護が遺産分割においてどのような意味を持つのか①法定相続分が修正されるほどの介護の程度、②介護の程度の立証方法③介護の貢献度合いの金銭評価の目安の順に説明します。これからは説明する内容は、家庭裁判所で審判になった場合における判断基準となるもので、遺産分割の話し合いの参考にしていただければ幸いです。

親の介護はどこまでやれば法定相続分からの修正が可能となるのか

親の介護はどこまでやれば法定相続分からの修正が可能となるのか

相続の相談でよく言われるのは、親と同居して20年ほど、私が親の分も含めて、料理、洗濯、買い物、掃除、通院付き添いなど、生活全般の面倒をみてきたので、遺産を多くもらいたいというものです。しかし、このような日常生活上の家事援助のレベルは同居の親子関係であれば当然のことであり、遺産分割において法定相続分を修正するものではありません。未成年の子の食事や洗濯、登園付き添いなどを親が担うのが当たり前なのと一緒で、高齢になり一人での行動に制約がかかる親の世話を同居している子が見るのも、また当たり前のこととなります。

そうすると、日常生活上の家事援助を超えた療養介護を実践した場合に、初めて法定相続分の修正(民法上、寄与分といいます)が認められることになります。寄与分が認められる基準としては、遺産分割の審判では、最低でも要介護2の介護認定を受けている親を在宅で介護していることが必要で、より確実に寄与分を認定されるためには要介護3以上であることが望ましいです。要介護2となると、一人で外出等することは困難で、食事では食べやすくするために細かく刻み、入浴の際も付き添いが望ましい程度となってきます。要介護3になるとトイレが一人でできなくなる可能性が高く、入浴もほぼ全面介助が必要となり着替えも一人では困難な部分が生じてきます。

つまり、要介護2以上にあると在宅での一人暮らしが困難であるため、相続人である子の介護が不可欠になる点で、寄与分が認められやすくなります。特に要介護3以上になると、介護のために相続人が拘束される時間も長くなり相続人自身の就労を中心として生活を犠牲にする部分が生じるので、寄与分が認められる可能性が高くなってきます。

このように、介護を理由に寄与分が認められるためには、在宅で生活できないはずの被相続人(高齢の親)を在宅で世話をし、相続人が自身の生活を一定程度、犠牲にして、親の在宅生活を維持していたと評価される必要があります。

寄与分の立証方法

寄与分の立証方法

それでは、寄与分が認められるほどに、親の介護を実践していた事実は、どうやったら裁判所に認めてもらえる(立証)でしょうか? 

介護保険証記載の要介護度

介護を受けていた被相続人本人は相続が始まった時点では亡くなっているので、被相続人の供述で直接、立証することはできません。

典型的な立証方法は、介護保険証記載の要介護度です。これにより、被相続人の介護が必要な程度が客観的に明らかになります。なので、介護保険証を被相続人の死後も保管しておくことが重要です。本人の死亡後に市役所に照会をしても死亡を理由に介護認定の記録の開示が拒否されるので、介護保険証はなくさないようにしましょう。

介護事業者への記録開示

その他に、デイサービスやホームヘルパーを利用した介護事業者への記録開示も方法の1つです。介護事業者には、被相続人のサービス使用時や契約更新時における生活自立度などに関する記録が保管されています。これは死後でも開示請求される可能性が高く、被相続人の介護の必要性が具体的に記載されているので有用な証拠になります。

もっとも、介護サービスの利用頻度が高いとその分、同居している相続人が介護を実践した割合が少ないことになります。例えば、平日の10時から17時まで週5日でデイサービスを利用していた場合には、寄与分が認められる範囲がかなり小さくなります。

医療記録(カルテ)の開示請求

では、介護認定の申請をしないで、全てを相続人による介護に委ねていた場合には、どのような立証手段があるでしょうか? このような場合は医療記録(カルテ)の開示請求が有効です。

要介護認定を受けていないと裁判所からすると、介護の必要がないから介護認定の申請をしなかったとの印象を与えかねません。逆に、全く介護サービスを利用しないで相続人が介護を担っていたことを立証できれば、寄与分が認められる範囲も大きくなります。申請をしていれば要介護認定2以上の状態の被相続人であれば、当然、健康ということはあり得ず、頻繁に医療機関を利用しているはずです。そこで、医療記録(カルテ)の開示請求が立証方法として重要になります。医療記録は、被相続人の死亡後でも相続人よる開示請求が認められ、しかも、10年以上前の記録が保管されていることも珍しくありません。特に入退院時の日常生活の自立度を記録した書面は、介護を要する状態に直結するものであり、極めて重要です。

その他立証手段

その他に、介護生活に対応したリフォーム工事(階段の手すりの設置、玄関等の段差をなくす工事)、介護用ベッドなどの器具の購入に関わる資料などもあります。端的に、被相続人に遺言書の作成を依頼して介護の状況を記載してもらうこともあり得ます。

寄与分の計算方法

寄与分の計算方法

では、寄与分が認められたとして、どの程度、法定相続分が修正されるか、言い換えると、本来は子同士で等分のはずが、寄与分によりどれくらい多くの金額の増額修正になるのでしょうか?

現在の家庭裁判所の審判実務では、介護保険において厚生労働省が設定している介護報酬基準が参考になることが多いです。現在の日本社会で広く普及している介護保険の基準が客観性、公平性の観点から優れており、しかも相続人の寄与度に直結する介護認定の程度に応じた報酬設定となっているからです。もっとも、介護報酬基準は、一定の介護技術や資格をもった職業人としての報酬であり、それをそのまま親族による介護に当てはめるのは寄与分を不当に高くする恐れがあるため、介護報酬を基準にしつつも下方修正された計算がなされることが多いです。

介護を実践した相続人からよく主張されるのは、仮に有料老人ホームへ入所していれば、毎月〇〇万円かかったので、それに年数分を掛けた金額を寄与分として認めて欲しいというものです。また、親の介護をしなければ、仕事を続けられていた、あるいは、もっと長時間の労働ができたと主張して相続人自身が失った収入の補填を求めるように寄与分を主張することがあります。

あとは、家政婦紹介所などで設定している家政婦の1時間あたりの料金など基準にして寄与分を主張する場合があります。

しかし、有料老人ホームは、施設により料金がバラバラであるし特別養護老人ホームに入所できた可能性も否定できず、寄与分の算定基準としては相続人間の公平を図ることが難しいでしょう。相続人自身の就労を基準にするのも、遺産に対する貢献を考慮する寄与分の趣旨から離れてしまいやはり不適切です。家政婦紹介所についても、介護保険によるホームヘルパーなどの在宅介護サービスが普及した現代においてその料金を基準にするのが適当とは言い難いです。

【まとめ】介護を理由とする寄与分の主張は具体性を持ったものにしましょう

以上のように、親を介護してきたから遺産を多く貰いたいのであれば、その介護の内容や程度を具体的に主張、立証していく必要があります。被相続人が要介護認定を受ける介護状態であることを大前提に、相続人が介護してきた期間、介護の内容(生活介助、身体介助の内容、介護サービスの利用の程度など)を集められる記録等から立証できるかを十分に検討する必要があります。

安易に介護の貢献を主張しても無駄に紛争が長引くだけとなります。冒頭でも述べたように、同居していない親にも言い分があり、介護の貢献を主張することは遺産分割の紛争を激化させる要因となります。そのような紛争を覚悟してでも、寄与分を主張するだけ、親の介護を献身的に実践してきたかどうか、十分に振り返ってみる必要があるでしょう。

初回相談1時間無料/オンライン相談可能
  1. 相続問題
  2. 相続放棄
  3. 遺言書作成
  4. 遺産整理
相続に関するお問い合わせ・相談予約は
24時間受け付けております
お問い合わせフォームはこちら
船橋習志野台法律事務所|初回60分無料 土日祝日・夜間20:30まで ご相談のお問い合わせはこちら