コラム

不動産の代償分割と換価分割|それぞれのメリット・デメリットを解説

2024.01.30

不動産の代償分割と換価分割|それぞれのメリット・デメリットを解説

不動産の代償分割と換価分割|それぞれのメリット・デメリットを解説

船橋習志野台法律事務所の弁護士の中村です。

相続問題において、比較的多い相談のひとつは、被相続人(亡くなった方)の自宅の土地建物その他の不動産の分配方法です。

特に、相続人の中に居住者がいる場合はその居住者が単独取得を希望し、分配方法の決定に時間がかかりやすいです。

この場合、単独取得の希望者に十分な資力があれば、代償分割という方法が適応されます。これは、他の人の相続分相当額を金銭に変え、他の相続人が代償として取得する仕組みです。

誰も取得希望者がいなければ、売却してその代金を分配する換価分割という方法を用います。

この記事では、代償分割、換価分割それぞれのメリット・デメリットについて解説します。

代償分割について

代償分割について

不動産の代償分割の基本概要

不動産の代償分割とは、複数の相続人における特定の不動産の分配する手法で、一人の相続人だけが単独で取得をして、他の相続人は金銭で受領する遺産分割の方法です。この方法の一番の難点は、売却しないため、対象となる不動産の価値の算定をめぐって相続人間で争いが生じやすいことです。

不動産の価値の算定方法

不動産の価値の算定方法としては、

  1. 固定資産税の算定基準となる【固定資産評価額を基準とする方法】
  2. 国税庁が公表している【路線価をベースに㎡単価を割り出す方法】
  3. 【近隣の公示地価をベースに㎡単価を割り出す方法】

があります。

建物については、木造、鉄骨など材料ごとに異なる㎡単価を基準に建築費を割り出して耐用年数に対する残年数の割合で算出する方法もあります。

広い畑、山林など流動性の低い不動産に関しては低めの金額が出やすい①の【固定資産評価額を基準とする方法】を使うことがあります。

通常の宅地については②の【路線価をベースに㎡単価を割り出す方法】か③の【近隣の公示地価をベースに㎡単価を割り出す方法】を使うことがあります。

土地の形状、建築規制、道路の幅などの様々な個別事情が影響を与え、、㎡単価だけでは実勢価格(仮に売りに出した場合に想定される成約価格)と乖離が懸念される場合には、不動産業者に査定を依頼することが一般的です。

合意が得られない場合の鑑定手続きと支払手続き

しかし、遺産分割で対立している状況ではお互いに自分が損をしたくないという気持ちが強くなり、各相続人が別々の不動産業者に査定を依頼して、それぞれの査定額に差が生じることがあります。

査定額に差が生じる要因には、土地の形状、建物形状、道路の幅、近隣環境(生活施設、葬儀場などの嫌悪施設、騒音問題、その他)、市況の将来予測、建物を現況で利用するか解体すべきかなどが挙げられます。

これらの要素に対する考慮方法について確立した手法がなく、査定をする業者の裁量にゆだねられる部分があるからです。

以下で合意が得られない場合・得られた場合、それぞれの手続きについて解説していきます。

合意が得られない場合の鑑定手続き

不動産の価値についてどうしても相続人同士で合意が得られなければ、調停を経て裁判所が選任する不動産鑑定士が鑑定した価額が評価額とされます。

ただ、鑑定費用は通常の戸建てでも30万円以上することが多く、できるだけ複数の査定額を平均化したものといった柔軟なやり方で合意した方がよいでしょう。

合意が成立した場合の支払手続き

評価額で合意ができた場合、単独取得を希望する相続人は、他の相続人の持ち分相当額を合意をした評価額をベースに算定して支払うことになります。

例えば対象となる不動産の評価額が3,000万円で相続人3名のうち一人が単独取得を希望する場合は、他の相続人の持ち分合計3分の2に相当する2,000万円を代償金として所有しない2名の相続人へ支払うことになります。

支払の方法は原則は一括払いですが、合意ができれば分轄払いも可能です。

遺産分割協議成立時は共有名義にして、代償金完済後に単独名義にするというやり方もあり得ます。ただ、支払いが滞った場合には新たな紛争が生じるので、極力、遺産分割協議の成立時点で代償金は全額支払うことが望ましいです。

他に預貯金があれば、それを他の相続人に取得させることで、代償金の負担を軽減できます。

代償分割を選択すべきでないケース

代償分割を選択すべきでないケース

逆にそうした事情がなく、一括で代償金を支払う資力がないなら、そもそも、代償分割の方法を選択すべきではないでしょう。

相続開始前から居住している被相続人名義の自宅から退去できない事情がある場合、一定期間の居住を認めて、その後売却するという遺産分割協議を成立させる方法があります。

この手法をを強制する手段は訴訟しかありません。一旦訴訟に発展した場合、居住し続ける相続人が受け取る分配金を減らして、協議を守る動機付けを担保することが重要です。

換価分割について

不動産の換価分割の基本概要

遺産である不動産について、全ての相続人が取得を希望しない場合、その不動産を売却してその売却代金を分配することを換価分割といいます。換価分割の場合は、実際の売却代金がまさに不動産の価値となるので、不動産の評価額をめぐって争いになることはありません。

ただ、実際に不動産を売却するためには、遺産分割協議成立後に、相続人全員の協力が必要です。具体的には全員で売買契約書に署名押印をし、所有権移転登記申請に必要な司法書士への委任状に相続人全員が実印を押印したうえで、印鑑登録証明書を提出する必要があります。

一部の相続人が実印や印鑑登録証明書の準備を怠ると、売却を進めることはできません。遺産分割協議成立後に一部の相続人の気持ちが変わって、売却へ協力しなくなる可能性も排除できません。

調停では換価分割で換価分割の方法で成立させることはできない

合意後に調停を申し立て、調停が成立すれば、調停調書を入手でき、全員から印鑑登録証明書を集める必要はなくなるのでしょうか?

この点について、実は調停では換価分割の方法で成立させることができません。

換価分割は、遺産分割の協議が成立した後に売却をする方法です。家庭裁判所の調停はあくまで遺産の分配方法を決めるだけであり、「売却」は遺産の帰属が決まったあとに各相続人で行う処分の方法であって、家庭裁判所で決めることはできません。

遺産分割協議で換価分割の方法で合意をした場合、それを守られなければ、協力しない相続人の持ち分を強制的に買い取るために訴訟を起こすしか手段がないでしょう。

売却代金の管理は弁護士へ依頼するのがおすすめ

相続人全員が協力して無事に売却できることとなった場合、売却代金を誰が受け取るかは重要な問題です。買主が自主的に各相続人に分配してくれる場合もありますが、かなりの手間であるため、買主として代表者一人の口座に全額を振り込む可能性もあります。

相続人の一人だけがいったん全額を受け取ってしまうと、他の相続人に分配しないで持ち逃げする懸念が多少なりとも生じます。

それを避けるには弁護士へ不動産売買の交渉を依頼して、弁護士の預り金口座に入金してもらってから、各相続人に分配する方法があります。

業務として売却代金を預かっている弁護士が横領した場合、弁護士会から業務停止以上の懲戒処分を受け、横領罪等で逮捕、有罪判決を受ける可能性が極めて高くなります。弁護士が預かった売却代金を持ち逃げすることはまず考えなくていいでしょう。

売却代金から控除すべき費用

最後に揉める可能性があるのは、売却代金から控除すべき費用です。

通常、不動産屋に買い手を探してもらう場合の仲介手数料、相続登記の費用、測量費用を控除することについては全員の合意を得やすいです。

一方、被相続人が居住していた建物内の残置物の処分については、同居していた相続人がいると当該同居相続人に多くの負担を求める場合もあります。

また、建物を解体して更地にして売却することとなった場合、思い入れのある実家等の解体に積極的に賛成しなかった相続人が解体費用の控除を嫌がることもあり得ます。

さらに、あくまで遺産分割協議である以上、不動産の売却とは直接関係のない葬儀費用、被相続人の死後に入院していた病院から請求された医療費など、様々な費用の清算を求めてくる相続人もいます。

合意ができれば、幅広く遺産分割の経費を精算してもよいですが、不動産の売買が迅速に進まない可能性があります。基本的には、売却に直接かかる経費のみを控除対象とすべきでしょう。

代償分割と換価分割のどちらがよいか

遺産の対象となる不動産が大きくて古く解体費用の負担が大きい建物がある場合、早期に売ることができないので、希望する相続人に単独取得させて代償分割によるのがよいでしょう。

特に不動産以外の預貯金などが豊富にある場合には、他の遺産が実質的に代償金の原資となるので、代償分割が望ましいでしょう。

逆に、流動性が高く数千万円以上で売れることが確実視される不動産については、換価分割が公平かつ実現可能性が高いでしょう。こうした不動産に相続人の一部が居住し代償金の支払い見通しがないまま単独取得を主張する場合は、審判に基づく競売も視野に入れるべきです。。

対象となる不動産の価値が高ければ競売によっても利益を確保できる可能性が高いです。被相続人の遺言がない限り、価値の高い不動産に一人の相続人だけが居住し続けるのは不公平です。

換価分割によって、相続人全員が不動産の価値を公平に分配できるだけでなく、居住者の転居費用も確保できます。そのため、遺産分割の審判やその後の競売手続を躊躇すべきではありません。

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