コラム

遺産分割の調停でできること・できないこと

2021.05.07

遺産分割の調停でできること・できないこと

遺産分割の調停でできること・できないこと

船橋習志野台法律事務所の弁護士の中村です。今回のコラムは遺産分割の調停について説明します。そもそも、調停は訴訟とは違うのかが分かりにくいと思います。調停の申立から遺産分割で合意に至る(調停成立)までの流れ、合意できない場合の流れ、実際の調停期日でのやりとりなど、どういう手続きなのかイメージが沸かないかもしれません。

このコラムをみて、遺産分割の調停においてできること、できないことを理解していただき、紛争解決の一手段として常に頭の片隅に入れて頂ければ幸いです。

調停と訴訟の違い

調停と訴訟の違い

裁判所での手続きといえば、原告の請求を認めるか否かを審理して判決を言い渡す訴訟がまず思い浮かぶかもしれません。調停はそもそも訴訟の一種なのでしょうか?裁判所を利用する手続きという点では、訴訟も調停も同じですが、その中身は大分違います。

調停はあくまでも話し合いの場であり、裁判所が結論を下すことはできません。訴訟の場合は、原告・被告の主張や立証を裁判官が吟味してどちらの言い分が法的に成り立つかを判断したうえで判決を言い渡します。これに対して、調停は裁判官が結論を下すことはありません。あくまで、当事者間の話し合いによる解決を探る手続きです。

遺産分割の調停は、遺産の分配をめぐる話し合いを相続人同士で行います。その話し合いを裁判所を利用しないで行うことを任意の遺産分割協議ということができます。なので、遺産分割の調停はその話し合いの場を裁判所で行う手続をいいます。

もちろん、裁判所はただ話し合いの場所を提供するだけではなく調停委員2名が中立の立場で、各相続人から話を聞いて、話し合いの着地点を探る手助けをしてくれます。もっとも、調停委員はあくまでも中立の立場なので、相続人に対して積極的に遺産分配の方法を提案することはありません。そして、話し合いで決着がつかないと裁判官が判断する場合には審判手続へ移行します。そして、裁判官が遺産の分配方法を決定する審判というものを言い渡します。

調停でできることとできないこと

調停でできることとできないこと

なかなか進まない話し合いを裁判所を利用して進めることができる

遺産分割の話し合いが進まない理由としては、

  • 相続人が多くてなかなか同じ機会に集まって話しができないから
  • 一部の相続人が頑なに話し合いを拒否するから
  • 遺産の整理ができず話し合いの糸口がつかめないから

などがあります。

遺産分割の調停を申し立てれば、家庭裁判所に相続人全員が集まって、調停委員が合意に向けて交通整理をしてくれます。まず、被相続人の遺産の内容、構成がどうなっているかを確定するための合意を目指します。これは、遺産分割の調停を申し立てた人が遺産目録を作成していることが多いので、その目録の内容で他の相続人も納得すればそこで遺産の構成が確定します。通常、ここではあまり争いは生じません。むしろ、各相続人が知っている情報をそれぞれ提供することで初めて遺産の全容が見える場合もあり、調停の効能が現れる場面でもあります。

次に、遺産の評価方法についての合意を試みます。預金の場合は通帳に記載されている金額がそのまま評価額になります。ただ、不動産については、固定資産評価額、路線価、公示地価、不動産業者の査定価額、不動産鑑定士による鑑定価額といった複数の基準があります。ここもこだわりがなければ、固定資産評価額や査定額で合意を得られます。納得できない相続人が一人でもいると不動産鑑定士による鑑定が必要な場合が出てきます。

さらに、遺産の取得方法について各相続人の希望を調停委員が個別に聴きます。被相続人の自宅の土地建物を引き継ぎたい、預金を取得したい、全て現金で貰いたいといった希望がありうるところです。そのうえで法定相続分に沿って欲しいのか、いろいろな事情から傾斜を付けて自分だけ余分に欲しいのかといった要望を細かく聞くことになります。

このようにして、段階を踏んで話し合いを進めるので、時間はかかりますが、調停前には完全に止まっていた話し合いが少しづつ進んでいきます。仮に、合意に到達しなくても、裁判官が分配方法を決定する遺産分割の審判の手続に進めることもできます。

話し合いの前提に争いがあると調停は進められない

たとえば、調停の申立人が作成した遺産目録については相手方が異議を述べて遺産の構成で合意ができないとこれ以上話し合いが進みません。遺産目録に3つの銀行口座の預金残高が記載されたとして、相手方がもう一つの口座があるといって、預金通帳の写しなどを提出すればそれをもとに遺産目録を修正して話を進めることもできます。ただ、具体的な指摘もなくただ反対しているだけになると、話し合いがストップしてしまいます。

また、相続人に親の預金を無断で引き出したとの主張が別の相続人からなされ返還を求める場合には、求められた側が納得しないのであればやはり、調停を進めることができません。他にも、遺言書がある場合に、一部の相続人が遺言書の無効を主張して遺言書の内容に従おうとしない場合にも調停を進めることができません。

このように、遺産分割の話し合いの前提となる遺産構成や遺言書の効力に争いがあると話し合いの土台ができていないので、調停を進めることができません。このような場合には、遺産確認の訴え、遺言無効確認の訴えなど、前提問題について裁判官の判断を求める訴訟手続が必要となります。

遺産の分配に関連する周辺事項の話し合いができる場合も

調停の手続きは、裁判所という公的な場で1,2か月に1回程度、相続人が集まって話し合いを進められるという特徴があります。そのため調停前は、遺産の分配をめぐる話し合いから先へ進めることができなかったものが、調停の期日を進めるごとに、話し合いが深まり、遺産の分配以外の問題が解決することもあります。

周辺事項の典型がお墓の管理の問題です。お墓は財産ではないので、遺産の分配そのものではありませんが、相続人の誰かがお墓を管理しなければならないので調停の際に決めておくことが望ましいです。また、両親のどちらかが亡くなった場合に、残された親の介護費用の分担については話し合われることがあります。子世代のうち遺産を多く受け取る子が残された親の介護費用を多めに負担するといった遺産分割の条件になることが珍しくありません。

もっとも、これらの事項は遺産そのものではないため、相続人の一人でも合意を望まないのであれば、全く決めることができず、審判手続へ移行してしまいます。審判に移行すると決められるのは純粋に遺産の分配方法だけになり、お墓や親の介護の問題といった本来的には関心のある事項が放置されてしまいます。

【まとめ】調停でできることを理解して有効活用しましょう

調停はいったん申し立てをすると、1回ごとの期日が1か月から1か月半置きに開かれるのでとても時間がかかる手続きではあります。また、調停を申し立てられる方は裁判所から呼び出される形になりこれに気分を害して話し合いが停滞する可能性もあります。

もっとも、遺産の分配の話し合いは、相続人同士だけで全く進まないことも珍しくなく、調停を申し立てて裁判所という中立の場で定期的に話し合いの場を設けることが有用な場合は少なくありません。

相続人が多い場合、遺産が複雑で整理できていない場合、話し合いに消極的な相続人がいる場合などは、調停の方がかえって早く解決できることもあります。ただ、調停はあくまでも裁判所での手続で専門的な法律知識を有する弁護士によるサポートがあった方がはるかに効用が高い手続きです。調停に向いているかどうかも含めて、遺産分割の話し合いが難しいと感じたときには積極的に弁護士へ相談しましょう。

関連記事

初回相談1時間無料/オンライン相談可能
  1. 相続問題
  2. 相続放棄
  3. 遺言書作成
  4. 遺産整理
相続に関するお問い合わせ・相談予約は
24時間受け付けております
お問い合わせフォームはこちら
船橋習志野台法律事務所|初回60分無料 土日祝日・夜間20:30まで ご相談のお問い合わせはこちら