コラム

遺言書が発見された場合の遺産分割協議

2024.03.13

遺言書が発見された場合の遺産分割協議

遺言書が発見された場合の遺産分割協議

船橋習志野台法律事務所の弁護士、中村です。

被相続人が遺言書を作成することは、将来における遺産分割をめぐる紛争を抑止する効果が期待できます。しかし、遺言書が発見されたとしても、それで全てが解決するわけではありません。

本コラムでは、遺言書の存在が遺産分割協議にどのような影響を与えるのか詳しく解説いたします。

遺産分割協議における遺言書の効力

遺言書を見る女性

遺言書の効力が争われる背景

日本においては、健康で余命の見通しがない段階で死後のことを考えるのは縁起が悪いという価値観が根強く存在します。そのため、亡くなる10年以上前に遺言書を作成することは稀です。多くの場合、遺言作成の動機は、余命が短くなった遺言者が、法定相続分とは異なる分配を希望する場合です。

遺言書が発見されるのは、遺言者本人が亡くなってからです。そのため、自分にとって不利な内容だと感じた相続人は、遺言者本人の判断能力に疑問を投げかけ、遺言が無効だと主張することがあります。

また、高齢の遺言者は、遺言書作成時期に交流のある相続人の影響を受けやすい傾向があります。そのため、他の相続人は、遺言書の内容が有利になっている相続人の不当な影響を受けたと考えがちです。

こうした背景から、遺言書が発見されてもその内容が絶対的なものではなく、かえって紛争の要因となることがあります。

遺言能力の判断基準

遺言書が有効であるためには、遺言者となる被相続人が遺言書作成時に遺言能力を有している必要があります。

遺言能力とは、単なる意思能力ではなく、遺言書作成に関する判断力のみを指す独自の指標です。認知症の診断を受けているというだけで、即座に遺言書が無効になるわけではありません。

遺言能力の判断には、以下の要素が考慮されます。

遺言作成の動機

遺言書作成の動機は、特定の相続人の生活を心配して遺産を残したい、お世話になった相続人以外の親族等に遺産を残したい、不義理があった相続人に遺産を渡したくないといった、対人関係での感情が元となっていることが多いです。

こうした感情は認知症で判断能力が衰えたからといって直ちに消えるものではなく、遺言書の意思を最大限尊重する観点から、様々な事情を考慮して遺言能力が判断されます。

遺言能力の判断要素

遺言能力の有無は、以下の要素を総合的に考慮して判断されます。

  • 医学的な遺言者の認知機能
  • 遺言書作成時点での健康状態
  • 遺言の内容・複雑さ
  • 遺言書作成時における遺言者の言動
  • 介護記録等や当時の生活環境から推認される遺言書の意向
  • 前の遺言がある場合はそれを変更する動機の有無

そして、相続人間で遺言の効力の有無について合意を得られない場合、遺言を無効だと考える相続人が遺言無効確認訴訟を地方裁判所へ訴えて裁判所が最終的に遺言の効力を判断することになります。

遺言が無効となりやすいケース

遺言書の形式

遺言書の種類によって、無効となる可能性は異なります。

自筆証書遺言

自筆証書遺言の場合、日付、署名、押印などの形式的な要件を満たしていないと、無効となる可能性があります。

公正証書遺言

 公証人が立ち会い、遺言者の意思確認を行うため、無効となる可能性は低いですが、偽造や錯誤などがないとは限りません。

遺言書作成時の状況

  • 認知症の進行度
  • 遺言内容が客観的事実に反する
  • 遺言者の健康状態等から理解が及ばない複雑な内容
  • 医療記録・介護記録から日常会話すらままならない状況

要介護3以上の段階で施設内にて遺言書を作成した場合も比較的、無効になりやすいでしょう。老人ホームなどの施設入所後に作成された遺言は、施設職員への利益供与など、不自然な内容の場合、無効となる可能性が高くなります。

その他にも、医療記録や介護記録は重要な資料となります。遺言の効力について争いがある場合は、言者の認知能力を判断する、詳細な医療記録もしくは介護記録が入手できるかが重要です。

遺言が有効となりやすいケース

自宅で書類作成している様子

遺言書の形式が公正証書遺言である

公正証書遺言は、公証人が立ち会い、遺言者の意思確認を行うため、無効となる可能性が低くなります。

遺言書作成時の状況

  • 認知症の進行度が軽度
  • 自宅での作成
  • 遺言内容がシンプルで明確
  • 明確な動機があり、同居していた相続人に全財産を渡す

自筆証書遺言であっても、遺言書作成当時に遺言者の通院歴、入院歴、がなく自宅での作成であれば、事実上、無効の根拠となる事実を立証できないため、有効と判断されることになるでしょう。

また、認知能力に多少問題があっても、同居していた相続人(特に配偶者)に全遺産を渡すという単純な内容であれば、理解することは可能であり動機も見出せるので、有効と判断されやすいです。

遺言書が遺産分割協議に与える影響

遺言書の効力と遺産分割調停

遺言書が存在する場合でも、遺産分割調停が申し立てられることがあります。調停委員会はまず、相続人間で遺言の効力について合意を見出せるか判断します。

遺言の効力について合意が得られない場合

遺言の効力について合意が得られない場合、調停委員会は調停申立人に対して調停の取り下げを強く促します。遺産分割調停は当事者間の話し合いの場を家庭裁判所が提供するものであって、争いのある事実について判断する手続ではないためです。

また、遺産の分配方法で合意に達しなければ、審判に移行して家庭裁判所の裁判官が遺産の分配方法を決定しますが、遺言の効力については遺産の分配方法そのものではないため、家庭裁判所で判断することができません。そのため、遺言の効力に争いがある場合、調停を進めることができず、取下げをするか裁判所の側で申立を却下することになります。

遺言書の効力について合意が得られた場合

遺言書が有効であることが相続人間で合意された場合、遺産分割協議は基本的に遺言書の内容に従って進められます。遺言書に記載された内容に基づき、誰がどの財産を取得するのかを具体的に決めます。

遺言書に記載されていない遺産については、法定相続分の割合に基づいて相続人全員で話し合い、分配方法を決定しましょう。

また、遺言の内容で遺留分を侵害される相続人がいれば遺留分を回復するための話し合いをすることになり、ここで合意が得られなければ、別途、地方裁判所にて遺留分侵害額回復請求訴訟を提起することになります。

遺言書発見のタイミング

遺産分割協議中に遺言書が発見された場合、その後の対応は、遺産分割調停の場合と同様です。遺言の効力について合意が得られない場合は、遺言無効を主張する相続人が地方裁判所へ提訴して判断を求めることになります。

遺言の効力について合意が得られなければ、遺言無効を主張する相続人が地方裁判所へ提訴して判断を求めることになります。遺言の効力を相続人全員が認めるなら、遺言書に記載がない遺産の帰属を話し合ったり遺留分侵害額をどのように調整していくかを話し合うことになります。

遺産分割協議成立後に遺言書が発見された場合

遺産分割協議成立後に遺言書が発見された場合、発見された遺言書の内容で有利な結果となる相続人は、成立した遺産分割協議の無効を主張できます。

遺産分割協議は、遺言書がないことを前提に遺産の分配について話し合うものです。遺言書が発見されれば、その前提が崩れるので、遺産分割協議の無効を主張が可能となります。遺産分割協議に入る前に、遺言書の有無をしっかりと確認しましょう。

まとめ|遺言書と遺産分割協議の関係

遺産分割協議は、通常、遺言書が存在しないことを前提とした話し合いとなります。そのため、遺産分割協議を始める前(調停を申し立てる前)に、遺言書があるかないかをきちんと確認することが大切です。

公証役場には、公正証書遺言の有無を検索できる「遺言書検索システム」があります。このシステムを利用することで、遺言書の有無を簡単に確認することができます。

遺言書がある場合、注意が必要なのは「遺留分侵害」です。遺留分とは、相続人が最低限取得できる遺産の割合です。遺言書によって遺留分を侵害された相続人は、遺留分侵害額回復請求権を行使することができます。この請求権は、遺言書を知ってから1年以内に行使しないと消滅してしまうので、時間がない場合は注意が必要です。

遺留分侵害の問題は複雑な場合が多いため、弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。

船橋習志野台法律事務所では、経験豊富な弁護士が、遺留分に関するご相談を承っております。

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