コラム

相続権のはく奪とは、該当する欠格事由や廃除の条件を解説

2023.09.05

相続権のはく奪とは、該当する欠格事由や廃除の条件を解説

相続権のはく奪とは、該当する欠格事由や廃除の条件を解説

船橋習志野台法律事務所の弁護士の中村です。

今回のコラムは法定相続人であるにもかかわらず、相続権がない場合、なくなる場合についての解説です。相続の相談の中では、親と仲が悪かった兄(弟)が遺産をもらうのはおかしい、あるいは、親の立場から親不孝をした子に遺産を残したくない、といったものがあります。

前者は相続の欠格事由、後者は相続の廃除で対応できる場合があることを本記事で詳しく解説していきます。

相続の欠格事由

相続の欠格事由

相続に関する法秩序を著しく乱した相続人については、民法で予め相続の権利を失わせる規定があります。これを相続の欠格事由といいます。

被相続人の殺害への関与

相続の欠格事由としてまず挙げられるのが、被相続人が殺害されるケースです。

一番分かりやすい欠格事由は被相続人を殺害してそれを理由に有罪判決を受けた場合です。例えば、自ら親を殺害しながら(たとえ刑罰をうけ長期の服役をすることになったとしても)その遺産を相続することは、自らが死亡する際にはその財産を子や身近な親族に残したいという被相続人の最も自然な情愛感情を裏切ることなります。

本来は人の意思で左右されない死亡という相続発生の契機を故意に惹き起こす点でも相続法秩序を著しく害するので、被相続人を殺害した相続人は相続権を失います。

もっとも、人を殺したか否かの事実は、現代社会では刑事裁判によって明らかにすることが予定されています。ですので、殺人罪で有罪判決を受けたことが欠格事由に該当する条件です。

仮に、殺人をしたという強い疑いがあっても刑事裁判になっていない場合に、他の相続人が民事訴訟で欠格事由として殺人の事実を主張立証しようとしても、有罪判決を受けていないため、欠格事由には該当し得ません。

被相続人の殺害の隠蔽への関与

次に、被相続人が第三者に殺害されたのを知りながら、これを警察に通報せず、殺人という犯罪を隠蔽した相続人は、欠格事由に該当し、相続権が奪われます。

被相続人が殺されたのを知りながら、その事実を隠して遺産を受け取る態度を法が許さないという趣旨から、相続の欠格事由とされています。

しかし、現代社会において病死か事故死か判然としない原因で死亡した場合に、捜査機関が介入しないことはほとんど想定できません。また、自ら警察へ通報しなくても、例えば、病院や救急隊からの通報で警察の捜査が開始された場合には、殺人の隠蔽にはならないので欠格事由には該当しません。

そのため、第三者が被相続人を殺害してそれを通報(告訴、告発)をしないことを理由に相続の欠格事由に該当することはほとんど考えらません。このルールについて明治時代の旧民法を戦後改正する際に検討から漏れてそのまま残ってしまった規定といえます。

被相続人の遺言の作成に違法に関与する場合

民法では、殺害以外の欠格事由として、被相続人による遺言書の作成について、詐欺または脅迫の手段を用いて不法に関与した相続人を欠格事由としています。

自己に有利な遺言書を違法な手段で作成させたり、逆に自己に不利な遺言書を違法な手段で作成させなかったりして、相続で不法な利得をするのを防ぐために、遺言書作成への不法な干渉を欠格事由としています。

遺言書の作成の妨害

不法な関与の典型例は、他の相続人に有利な遺言書を作成しようとするのを妨害することが挙げられます。

被相続人が家業の後継の長男に遺産の全てを渡す遺言書を作成しようとした際に、二男が被相続人に「長男は同業他社の産業スパイになって私腹を肥やしている」と嘘をついて遺言書の作成を思いとどまらせた場合がこの欠格事由に該当します。

また、後継者だった長男が不祥事を起こして後継から外れてしまったことを理由に被相続人が長男に遺産を全て取得させる遺言書を変更しようとした場合、その長男が被相続人に暴行を加えるなどして脅し、新しい遺言書を作成させなかった場合もこの欠格事由に該当します。

遺言書作成に関する詐欺・脅迫

反対に、被相続人を騙したり、脅して、自分だけが全財産を取得できる遺言を作成させた場合にも欠格事由に該当します。

これらの違法な遺言の作成に関する欠格事由については、被相続人が亡くなるまで、妨害した相続人の影響力が残っている必要があります。

そのため、遺言書の作成が亡くなる10年とか20年以上前になると、違法に関与した相続人の影響力がなくなっても遺言が存続している以上、被相続人が真意に遺言を作成したとみなされ、欠格事由に該当しにくくなります。

遺言書を偽造・変造・破棄した場合

相続の欠格事由で最も主張されやすいのが、自分に有利な内容の遺言書を偽造する、既に作成された自分に不利な遺言書を改ざんしたり破棄したりする場合です。

この場合は、違法に遺言書を作成、改善、破棄して自己に有利な形で相続を進めようとするのを阻止するために欠格事由としています。

欠格事由でこのパターンの主張が多いのは、現に残された遺言書の筆跡が不自然であったり、改ざんの痕跡を見つけられる可能性が、他の欠格事由より可能性が高いからです。

被相続人と生前に交流が乏しかった相続人が全遺産を取得する遺言書が見つかれば偽造を疑い場合によって、欠格事由を主張してもよいでしょう。

親の立場で相続人を廃除する

親の立場で相続人を廃除する

次に、親の立場から、生前(相続開始前)の段階で、特定の相続人に遺産を取得させない方法を解説します。手っ取り早くできるのは、遺言書を作成して当該相続人の取り分を0にすることです。

しかし、子には遺留分という最低限の権利があり、この権利を行使されると、法定相続分の半分までは当該相続人の権利が回復してしまいます。

この遺留分を少しでも減らせるために、当該相続人に生前贈与をした事実や事業資金を肩代わりしたなど、遺産の前渡しといえる事実を書き連ねて、当該相続人の取り分を減らすことはできますが、完全に0にするのは難しいです。

そこで、本当に遺産を1円もやりたくない相続人がいる場合には、家庭裁判所に廃除の申立をして、予め、相続人の資格をはく奪するという方法があります。

もっとも、廃除に該当する事由は、被相続人に対する虐待、重大な侮辱、著しい非行に限定され、重大な犯罪を犯して長期に服役するといった事情がないとなかなか認められないでしょう。

特に、交流が疎遠になっているというだけでは、廃除が認められません。また、廃除の申立は、該当する相続人にその事実を知られることになりますので、遺産をやりたくない場合の最終手段として考えた方がいいでしょう。

相続権のはく奪は可能だが限定的で難しいことが多い

以上で見てきたように、相続の欠格事由も廃除の事由も、かなり限定的です。

そのため、相続権そのもののはく奪は困難と考えるべきであり、寄与分、特別受益などで、少しでも当該相続人の取り分を減らすことを考えた方がよいでしょう。

欠格事由や廃除の条件に当てはまるのかどうか悩んでいる方は、ぜひ弁護士など専門家にご相談ください。

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