コラム

学費援助が特別受益に該当する場合も!該当する・しない例を紹介

2023.08.08

学費援助が特別受益に該当する場合も!該当する・しない例を紹介

学費援助が特別受益に該当する場合も!該当する・しない例を紹介

船橋習志野台法律事務所の弁護士の中村です。

相続の問題で、合意形成を難しくする一つの事情に被相続人による学費援助があります。学費援助には、

  1. 共同相続人の一人だけに大学の学費を援助する 
  2. 共同相続人の一人の子(被相続人の孫)に大学の学費を援助する

場合があります。

なお、高校や専門学校等は費用が大学ほど高くなく、特に高校は事実上、義務教育に近い位置づけとなっているのでこの費用が特別受益と主張されることはほぼありません。ですので、本コラムでは大学の学費に絞って特別受益該当性の解説をします。

現代において大学の学費負担は親の扶養義務であり、原則として認められない

現代において大学の学費負担は親の扶養義務であり、原則として認められない

相続が発生する時点で共同相続人である子の世代は50歳から70歳程度であることが多いでしょう。これらの世代が大学生であった30年程度前から大学進学率が上昇し、特に首都圏では大学進学が当たり前ともいえる状況です。

1990年代以降は特別受益と認められにくい

そのため、大学進学までは、子が社会人になるための必要な経費として親の扶養義務と評価されやすいです。そうすると、少なくとも1990年代以降に大学へ進学した相続人の学費については、特別受益が認められることは少ないでしょう。

大学へ進学した相続人とそうでない相続人の差は、個々の相続人の意思決定によるものとみなされやすいです。仮に親の資力で1人だけしか大学へ進学できなかったとしても当時の親の資力を立証するのが難しいうえ、限られた資力で学力の高い相続人だけ大学へ進学させることもやはり親(被相続人)の扶養義務といいやすいのです。

1970年代は特別受益が認められやすい

もっとも、上の世代の70歳以上の相続人については、1970年代は大学進学率が低かったので事例によっては特別受益が認められるかもしれません。

この時代は、大学に進学する人が少なく、被相続人が中学卒業程度の学歴で、他の相続人も高校卒業後に就職したのに、一人だけ大学へ進学しそれが就職後の収入増につながっているのであれば、特別受益に該当するかもしれません。

しかし、大学進学と就職の関係は昔のことであり、当時の大卒と高卒以下の給与水準を示す統計資料がないと特別受益の立証は難しい可能性もあります。

就職に直結する高額な学費負担の場合には特別受益が認められやすい

就職に直結する高額な学費負担の場合には特別受益が認められやすい

例えば私立の医学部への進学費用を全て被相続人が拠出し、その後、卒業した相続人が医師になり年収数千万円を稼げば、これは特別受益になる可能性が高いです。

なぜなら、大学進学が当たり前になったとはいえ、さすがに医学部6年間の1000万円以上の学費を親の扶養義務の範囲と言い切ることは困難であるし、医学部から医師になる必然性からして将来の収入に直結する経費を親に出してもらったことは、遺産の前渡しである特別受益そのものといえるからです。

その他の事例としては、海外の大学に留学しその学費と現地での生活費を全て被相続人が負担し、かつ、留学した相続人が海外と日本の双方に拠点をもつ仕事に就いて高収入となる場合も、医学部同様の学費の支出と就職後の収入増の関連性が認められます。

海外での生活費を含めればやはり、扶養義務の範囲を超えて特別受益といえるでしょう。

もっとも、被相続人も医師であって、後継にするため医学部進学の費用を被相続人が負担した場合には、特別受益に該当しても、遺産に戻すことの免除するという形で、結局、特別受益が認められないこともあります。

孫の学費の援助は、相続人である親の扶養義務を肩代わりしたか否かがポイント

孫の学費の援助は、相続人である親の扶養義務を肩代わりしたか否かがポイント

孫の学費が遺産分割協議で問題となる場合、時期的には被相続人が孫へ学費を援助したのは相続開始から5年か10年程度前の最近の出来事になります。

そうなれば、現在の大学進学率の高さからすれば、本来であれば、親が子(被相続人の孫)の大学の学費を支払うべきであり、扶養義務として果たすべきでしょう。

親の扶養義務を肩代わりしたと評価できる事例

例えば、孫が高校在学中に大学受験のために塾に通いこの費用を相続人が負担していたが、受験の1年ほど前に相続人が失業して、代わりに被相続人が学費を援助した場合は、親の扶養義務を被相続人が肩代わりしたといえます。

これは、言い換えると、日常の生活費同様に相続人自身で負担すべきものを被相続人が肩代わりしたことになるので特別受益に該当しやすくなります。

その他、子が複数名いて、全員分の学費を相続人の資力で賄えない場合に被相続人が一部の孫に学費を援助した場合にも親の扶養義務の肩代わりといえ特別受益に該当する可能性があります。

親の扶養義務を肩代わりしたと評価できない事例

逆に親の扶養義務を肩代わりしたと評価できないのは以下のような事例でしょう。

もともと、相続人である親に子の学費を負担する資力が十分にあったが、被相続人が特定の孫をかわいがって自主的に学費を負担した場合や、被相続人が医師で子である相続人が医師にならなかったが、孫が医師になるため医学部へ進学する費用を被相続人が負担した場合です。

これらは被相続人と孫の人的関係に基づいて学費が支出されているので、親の扶養義務と無関係な援助であって、親(相続人)が援助を受けたとはいえないからです。

孫の学費は比較的、最近の出来事なので、相続人自身の学費よりは特別受益の該当性を立証しやすいかもしれません。

大学の学費=特別受益ではない

大学の学費は一般に数百万円から1000万円前後と高額になり、兄弟姉妹のうち一人だけが親(被相続人)から学費の援助を受けていると、不公平と感じやすく特別受益を主張することが多いです。

ですが、これまで述べたように、大学進学が特別なことではなくなって30年以上が経過しており、学費の支出は基本的には親の扶養義務なので、それだけで特別受益に該当することはありません。

特別受益を主張するためには文字通り、学費負担が親にとって特別な負担でかつ受け取った子にとって特別な利益といえるような関係が必要です。

医学部、音楽大学、海外留学といった特殊な例でない限り、特別受益の認定は困難でしょう。孫への学費援助についてはその経緯を細かく立証できるかがポイントになります。

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