コラム

成年後見人は必要?認知症の共同相続人がいる遺産分割協議

2022.10.07

成年後見人は必要?認知症の共同相続人がいる遺産分割協議

船橋習志野台法律事務所の弁護士の中村です。

相続が始まり、遺産分割協議を始めようと思っても、共同相続人の1人が認知症などで、遺産に対する意向を表示できないことがあります。そうすると、遺産分割協議の手続きが進められず、銀行預金も払い戻しができず、不動産の名義変更もできず、誰も遺産を取得できない状態が続いてしまいます。

これを打開する方法が成年後見開始の審判申立です。今回のコラムでは、遺産分割協議をきっかけとする成年後見開始の審判申立について説明いたします。

誰がどうやって成年後見開始の申立をするのか

誰がどうやって成年後見開始の申立をするのか

遺産分割の際の成年後見開始の申立は誰がするのかが、一番の問題です。

成年後見開始の申立は他の共同相続人1人でも可能

法律上は、共同相続人同士は親族であるため、共同相続人の1人が認知症などで判断能力がなければ、他の共同相続人は1人でも申立ができます。

成年後見開始には医師の診断書が必要

ただ、成年後見開始の申立をするには、その判断能力がなくなった共同相続人について裁判所指定の書式による診断書が必要です。この診断書が判断能力がないことを証明することになるからです。そうすると、同居の共同相続人が非協力的だと、医師の診断を受けることができず、診断書が作成できません。

特に、高齢の両親の片方がなくなり、もう片方の親が認知症で同居している子がいる場合、同居している子がそのまま被相続人名義の自宅に居住し続けたい場合などは、相続手続を進めること自体に難色を示し、判断能力のない親をそのままにして成年後見人を就けたくないという思いが強いことがあります。

診断書がなくても成年後見開始申立はできるケースも

診断書が取れないままだと申立をしても手続きを進められない可能性があります。その場合は、いったん、後見開始の申立をあきらめ、遺産分割の調停を家庭裁判所に申立ます。

そうすると、認知症となった共同相続人と同居している共同相続人が連れて一緒に家庭裁判所へ出頭することになります。そこで、調停委員会の判断で後見人の選任が必要となれば、診断書がないままでの後見開始申立ができる余地があります。

誰が成年後見人になるのか

誰が成年後見人になるのか

成年後見開始の申立がうまくいき、手続きが進んだ場合、最終的に誰が成年後見人になるでしょうか?

相続に関係のある人は成年後見人にはなれない

当然、同居している共同相続人は成年後見人になれません。

同居している共同相続人が成年後見人になれば、遺産分割において1人二役を演じることになってしまい、本人の利益が完全に無視された遺産分割が成立する恐れがあるからです。同じ理由で同居していない共同相続人も成年後見人になれません。

そうすると、共同相続人以外の親族であっても、共同相続人の子(被相続人の孫)とか共同相続人の配偶者なども、遺産分割に利害関係があるので、このような親族が成年後見人になると、やはり、本人の利益が害されます。

成年後見人には専門職である弁護士が選任されやすい

以上のことから、遺産分割協議に伴う成年後見開始の場合には、専門職が成年後見人に選任されることが多いです。特に遺産分割は紛争事案であるため、紛争での代理資格がある弁護士が選任される可能性が高いでしょう。

では、どのような弁護士が選任されるでしょうか?

これは、裁判所の推薦で特定の弁護士が選任されます。後見開始の申立をした共同相続人が自分の知り合いや自宅近くなどの弁護士を後見人の候補者としても、裁判所が全く無関係の弁護士を選任する可能性が高いです。

なぜなら、遺産分割協議が共同相続人同士の紛争になりやすいので、公平中立に本人の利益を実現するためには、他の共同相続人とは全く関係のない弁護士を選任すべきといえるからです。

認知症の共同相続人がいたまま成年後見人なしで遺産分割協議ができるか

認知症の共同相続人がいたまま成年後見人なしで遺産分割協議ができるか

認知症の共同相続人に対して成年後見開始の申立をするのは、同居の共同相続人の協力が得られない場合には相当、苦労を要します。

さらに、成年後見人に選任されるのは弁護士となる可能性が高く、弁護士が選任された場合には、本人の財産から選任された弁護士へ報酬を支払う必要もあります。そうすると、共同相続人の1人が認知症であっても、とりあえず、遺産分割協議を成立させた方が楽なように思えます。

認知症の共同相続人による遺産分割協議書が危険な理由

認知症の共同相続人が署名押印をした遺産分割協議書は、後から他の共同相続人によって無効の主張がなされる恐れがあります。

遺産分割協議書にサインをした時点では他の共同相続人全員が納得したとしても、やっぱり、自分がもっともらえたはずだと考えて、認知症の相続人がいることを口実に、遺産分割協議書の無効を主張してくるケースです。遺産分割協議書の無効を主張して本気で争うと民事訴訟で遺産分割協議の無効確認訴訟を提起することも可能です。

訴訟に発展させるより成年後見人を立てたほうが早い

訴訟にまで発展してしまうと、最終的な解決まで数年以上かかることも珍しくありません。

そうであるならば、認知症の共同相続人がいる場合には、面倒であっても、成年後見開始の審判を申し立てて、きちんと成年後見人を就けた方がよいでしょう。

いくら後見開始の手続きが面倒であっても、半年か1年で後見人の選任は完了します。いったん、成年後見人が選任されれば、当該後見人に紛争を長引かせる動機を持たない以上、遺産分割協議がスムーズになることを期待できます。

遺産分割協議における成年後見制度の利用は常に選択肢にいれるべき

認知症の共同相続人がいる遺産分割協議は非常に難しいです。リスク回避のために、成年後見制度の利用は常に検討事項となります。

これまで説明したように遺産分割協議の場面での成年後見開始の申立は非常に手間がかかります。なので、被相続人にほとんど財産がなかったり、あるいは、認知症になった本人に多くの遺産を取得させる遺産分割協議である場合には、事後的に遺産分割協議の無効を主張されるリスクはかなり小さくなります。

なので、遺産分割協議の場面での成年後見制度の利用に当たっては、申立前に弁護士へ相談するのが重要でしょう。

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