コラム
複数回の相続で発生する不動産相続問題:祖父母からの相続を徹底解説!
2024.05.31
複数回の相続で発生する不動産相続問題:祖父母からの相続を徹底解説!
船橋習志野台法律事務所の弁護士の中村です。相続放棄は、多額の借金を抱えた親の相続を免れるために子が行うというイメージが強いですが、借金とは無関係に行う場合もあります。
その代表的な例が、不動産が亡くなった人の名義のまま放置され、数十年以上経過して、いつの間にか共有持ち分権者になっているケースです。
このような場合、固定資産税が滞納したり、荒れ地になって管理上の問題が発生したりして、市役所の調査で相続人が判明し、市役所から通知が届くことで、初めて土地の存在を知ることが多いのです。
さらに、これらの不動産は、親ではなく祖父母や曾祖父の名義のままで、複数の相続を経て共有持ち分権者になっていることも少なくありません。
この記事では、複数の相続が発生している場合の相続放棄について、詳しく解説します。
目次
両親の相続は承認し、祖父母の相続放棄をしたい場合
祖父母名義の不動産について、市役所から固定資産税の支払い通知が届いた場合、相続放棄を検討する必要があります。 以下、2つのパターンとそれぞれの注意点について解説します。
①祖父母→両親と順次相続が始まった場合
② 両親が先に死亡し、その後祖父母が死亡した場合 (代襲相続)
結論、どちらのパターンでも祖父母の相続放棄は可能です。以下で詳しく解説していきます。
①祖父母→両親と順次相続が始まった場合
祖父母の死亡後両親が相続し、その後両親が亡くなりあなたが相続人となった場合を見てみましょう。
形式的には、祖父母の死亡を知ってから3か月の熟慮期間の経過しているため、相続放棄ができないように思えます。しかし、固定資産税の支払いの通知を受けて初めて祖父母に借金があることを知った場合は、その時点から3か月以内で相続放棄が可能です。
しかし、市役所から個別に固定資産税の支払い請求訴訟が提起された場合や、すでに両親の相続を承認済みの場合だと、祖父母の相続だけ放棄するのは認められない可能性があります。
形式的には、両親の相続を承認した時点で祖父母の固定資産税の支払い債務も含めてこれを承認したとも捉えられるためです。
② 両親が先に死亡し、その後祖父母が死亡した場合 (代襲相続)
両親が先に亡くなり、あなたが両親の相続人となる。その後、祖父母が亡くなり、あなたは祖父母の代襲相続人となった場合を見てみましょう。
祖父母からの相続と両親からの相続は完全に別個独立のものになるので、両親からの相続を承認しつつ、祖父母の相続のみを放棄することができます。
相続放棄の申述審査と不動産相続における注意事項
相続放棄の申述の審理は主に書面審査で行われ、両親が祖父母の相続を受けた時点では不動産に関する相続登記が行われておらず、遺産分割が未完了であるため、両親も祖父母の固定資産税の支払い債務について知らなかったと推定されます。
また、両親が祖父母の預金などの他の遺産を処分したかどうかについては通常は相続放棄の申述を審理する家庭裁判所が調査する範囲外です。
そのため、祖父母から両親への相続に関して両親が祖父母の相続を放棄できる地位を引き継ぐ形で孫が祖父母の相続放棄の申述が認められることもあります。
ただし、市役所から固定資産税の支払い請求訴訟が提起された場合、その訴訟を審理する裁判所では祖父母から両親への相続に関する遺産分割協議の有無や内容、祖父母の他の遺産の処分について詳しく審理されるため、相続放棄が無効になる可能性があることに留意する必要があります。
両親の相続放棄だけをして祖父母の相続を承認したい場合
祖父母名義の不動産に一定の市場価値があり、固定資産税を払ってでも相続したい場合を想定します。この場合、両親の相続を承認していれば祖父母の相続を承認することができ、不動産を相続により取得できます。
祖父母名義の不動産が見つかった時点で、両親がすでに相続放棄している場合、原則として、祖父母の相続だけを承認することはできません。なぜなら、祖父母の相続は、祖父母から両親へ、そして自分へと順次、継承されるものであり、両親を飛び越して祖父母の遺産を相続することはできないからです。
ただし、両親が祖父母よりも先に亡くなっている代襲相続の場合には、両親の相続を放棄しつつ、祖父母の相続を承認することができます。代襲相続の場合、祖父母からの相続と両親からの相続は独立したものであるため、このような手続きが可能です。
祖父母と両親の相続を両方とも相続放棄したい場合
代襲相続の場合は、祖父母と両親の相続が別々に独立しているため、両方の相続放棄が可能です。
通常の祖父母⇒両親の順番どおりの相続の場合は、先に両親の相続を放棄していれば、祖父母の地位を承継できなくなるため、祖父母の相続放棄は不要です。
祖父母の相続放棄後に、両親の借金が見つかった場合、それを承継しないためには、別途両親の相続放棄が必要です。
まとめ:代襲相続と通常の相続の違いに注意する
祖父母が亡くなってしばらくしてから祖父母の不動産が見つかった場合、両親と祖父母のどちらが先に亡くなったかで相続放棄の可否や扱いが異なることに注意が必要です。ただし、固定資産税の支払い通知が市役所から来た場合、代襲相続でも通常の順次の相続でも、3か月の熟慮期間の起算点が通知を受けた日になるため、結局、相続放棄が可能になることがあります。
しかし、後者の場合は、両親の相続を承認してから祖父母の相続を放棄する形になることが多く、前述のように相続放棄が受理されても、後に債権者からの訴訟提起などで無効とされるリスクがあります。そのため、弁護士に相談してから判断することが重要です。
なお、本コラムでは、祖父母が死亡してから3か月以内に両親が死亡する再転相続については、かなり稀な状況であるため詳しく説明しておりません。