コラム
被相続人以外の名義の財産と遺産分割協議
2023.10.24
被相続人以外の名義の財産と遺産分割協議
船橋習志野台法律事務所の弁護士の中村です。
遺産分割の対象は原則として、相続開始時点で残っている被相続人の名義の財産となります。もっとも、様々な事情で、子の名義にしたり、第三者名義になっている財産が実質的には被相続人の財産と呼べる場合もあります。
今回のコラムでは、名義が被相続人でなくても遺産分割の対象となるのか解説します。
目次
預貯金について
被相続人が他人名義の財産を遺す典型例は子ども名義の預貯金です。子どものために残した預貯金でも遺産であることを主張する必要があるものもありますので下記で説明していきます。
子どもが未成年のうちに子名義の口座を開設した場合
子どもが未成年のうちに親権者として子名義の口座を開設して将来の学費のために貯金していたものの、実際に使うことなく、そのままにして亡くなってしまう場合があります。
この場合、未成年の時からの預貯金の場合には未成年の時から稼働して自己資金を口座に入金できないので、遺産であることが認められやすいです。
成人した子どもの口座に被相続人が子のための資金を入金した場合
成人した子どもの了解を得て当該子の使っていない通帳と印鑑を被相続人が預り、被相続人の死後に名義人である子が使用することを想定してまとまった資金を入金する場合があります。
これらはいずれも、実質的には被相続人の遺産です。ただ、当該名義人の子が自分の固有の資産であることを主張して譲らない場合、他の相続人は遺産確認の訴えを提起して、子名義の預貯金が遺産であることを主張・立証する必要があります。
成人してからの子の名義の預貯金については、その経緯を知っている相続人が具体的な事実を主張してその裏付けとなる資料を出せるか否かがポイントです。
入金時の子どもの資金力もポイント
また、入金時の当該子の資力からその入金額が大金で子が自ら稼げないと判断されれば、被相続人の財産が原資と認められやすくなります。もっとも、名義人の子から贈与されたと主張されるとこれに対する反論は難しいでしょう。
そうなると、成人した以降に開設された子名義の預貯金については、相続人間で協議がまとまらなければ、贈与と扱い、特別受益が認められるか否かを協議するのが建設的でしょう。
遺産確認の訴えをしてもそれ自体で遺産分割の問題が解決せず、前提段階で時間や弁護士費用を浪費することになります。
預金が第三者名義であった場合、そうなった経緯に詳しい相続人がいない限りは、これを遺産分割の対象とすることはできないでしょう。
不動産について
同居する子の名前で登記をする場合
不動産が被相続人名義以外の場合の最も典型的な例は、被相続人の自宅を建替えをして、子と二世帯住宅を建築する場合に、被相続人が多くの建築資金を拠出しながら、名義は同居する子の名前で登記をする場合です。
こうした事例では、建築費を出した被相続人が建物の実質的所有者というよりは、老後の世話をしてもらうこととの引き換えに建築費を子に贈与したとみるのが自然です。なので、自宅建物は子が所有者で遺産の対象とならない扱いにするのが一般的です。
もっとも、自宅の建築費は生活に不可欠な資金の援助なので、建築費を被相続人から贈与を受けた点は特別受益に該当します。
亡くなった配偶者の名義のまま被相続人が亡くなった場合
次に多いのが、父名義の自宅の土地建物があり、父が死亡後、母が健在なため、名義変更をしないまま、5年か10年程度経過して、母が死亡する場合です。
この場合、母が居住していた自宅の土地建物は亡父名義のままですが、少なくとも父からの法定相続分2分の1が母の遺産として扱われます。残った2分の1は子どもらが等分に法定相続分として把握できるため、事実上、自宅全体が遺産分割の対象となります。
不動産が第三者名義の場合
最後に、第三者名義の不動産です。比較的多いのが、親族から譲り受けた土地建物を被相続人が使用し続けているが親族間での無償譲渡のため、所有権移転登記手続を失念している場合です。
こうしたケースでは名義人である親族も死亡して相続が発生していることが多く、名義人の相続人に問い合わせて了解を得て被相続人名義にしてもらってから遺産分割の対象とする方法が取れます。
被相続人が第三者名義の不動産を時効取得する場合
次に珍しいケースですが、被相続人が第三者名義の不動産を時効取得する場合があります。特に農地は権利関係が不明瞭のまま、事実上、長期間の使用を続け、時効が成立することがあります。
時効のケースでは第三者との何ら人間関係がなく、訴訟で時効成立の判断を裁判所にしてもらう必要があります。
被相続人以外の名義の財産の扱いは柔軟に
これまで説明してきたように、子名義の財産について、当該名義人の子が自己の財産だと主張した場合、これを遺産と認めさせるためには遺産確認の訴えを提起して裁判所に遺産だと認めさせるしか方法がありません。
これには膨大な時間と費用がかかり、しかもこの裁判によっては遺産分割の問題については何ら結論を示しません。そのため、贈与を前提として特別受益を認める、形式的に遺産としながらも当該名義人が遺産分割の結果取得した形にするなどの柔軟な対応が必要です。
また、子でも親族でもない第三者名義の財産については、明確な証拠がない限り、遺産として扱うことは困難でしょう。