コラム
相続財産が使い込まれている?不正が疑われる場合の対応方法
2023.10.31
相続財産が使い込まれている?不正が疑われる場合の対応方法
相続財産は本来相続人全員が納得する形で扱い方を決めるのが理想です。しかし中には相続財産の預貯金を勝手に使われてしまうケースがあります。一般的に「使い込み」と呼ばれるこの行為は、財産の不正利用にあたるため相続人が適切に対処することが大切です。
この記事では大切な相続財産を使い込みから守るための知識を紹介していきます。
目次
相続財産が不正に使われているかも…使い込みを確認する方法は?
いざという時に慌ててしまわぬよう、まずは予備知識を身に付けておきましょう。
相続財産の使い込みは罪に問われる?
相続財産を使い込むと場合によっては「窃盗罪」「横領罪」が成立することがあります。ただしこれは「第三者」によって財産が使い込まれた場合の話です。親族による財産の使い込みは刑罰が免除されるルールになっているので注意してください。
不正な使い込みを確認する方法
相続財産の預貯金が減っているだけでは、他人による使い込みであると断定できません。事態を正確に把握するためには、次のような方法があります。
預貯金の取引履歴を請求する
預貯金の動きは通帳記入で追うことができますが、親族によって預貯金が使い込まれていると通帳が隠されている可能性もあります。手元に通帳がない場合は、金融機関に問い合わせて「取引明細書」を発行してもらいましょう。
被相続人の死後、その預貯金口座の取引明細書は各相続人が請求する権利を持っています。一般的には過去10年分まで遡って確認することが可能です。なお、取引明細書の発行には戸籍謄本など所定の書類が必要になります。
弁護士へ依頼する
取引明細書の発行は書類の用意や手続きといった手間がかかります。相続財産が多くて1つ1つ確認するには時間がかかるというケースもあるでしょう。
そういった場合は弁護士の力を借りるのがおすすめです。弁護士は「弁護士会照会制度」を利用できるため、金融機関への照会手続きや証拠集めを効率的に進めてもらえます。
裁判所を利用する
取引明細書の請求や弁護士会照会制度で調査できるのは基本的に被相続人の口座のみです。財産を使い込んだ可能性がある人の口座については、プライバシーへの配慮から金融機関が応じてくれないケースもあります。
この場合は裁判所に「職権調査嘱託」の申し立てを行うと、金融機関が情報開示してくれる可能性が高いです。職権調査嘱託は訴訟のプロセスで必要性が認められた場合に受理されるため、原則として民事訴訟を起こす必要があります。
使い込みされた相続財産を取り戻す方法
使い込まれた相続財産を取り戻す方法はいくつかありますが、一般的に次のような順番で進められています。
当人同士で話し合いをする
相続財産のトラブルは当人同士で解決するのが最も穏便な手段です。話し合いを持ちかける前には、使い込みを証明できる証拠を用意しておくとスムーズに事を運べます。
使い込んだ本人にも法定相続分がある場合は、使い込んだ分の金額を遺産分割協議で取り分から差し引くのが一般的な和解案です。
遺産分割の調停の場で指摘、主張する
当人間で和解に至らない場合は家庭裁判所で遺産分割調停を行います。2018年の改正民法により、既に使い込まれた相続財産についても共同相続人全員(使い込んだ当人は除く)の同意を条件に遺産分割調停などの対象とできるようになりました。
ただし相続開始前の使い込みに関しては不当利得返還請求などの手続きが必要となります。
訴訟をする
相手が使い込みを認めないケースでは民事訴訟で争うことになります。相続財産の回収では「不当利得返還請求」または「不法行為に基づく損害賠償請求」の手続きをとるのが一般的です。
状況によって適したアプローチが異なるので、詳しくは担当弁護士に相談してみましょう。
遺留分侵害額請求をする
使い込みの証拠が不十分な場合は裁判所で遺留分侵害額請求の手続きをとりましょう。
この手続きでは特定の相続人に保証された一定の遺留品に関して、損害を被った際に侵害額相当分を金銭で請求できます。一部の生前贈与を対象としているのもポイントです。詳しくは以下のリンクを参照してみてください。
使い込みされた相続財産を取り戻せないケース
相続財産の使い込みが発覚しても、以下のように取り戻しが難しいケースがあります。
時効が成立している
使い込みの回収に関する法的な手続きは時効が定められているため、一定期間を過ぎると回収できなくなります。不当利得返還請求の時効は権利を行使の認知から5年、権利行使可能時点から10年です。不法行為に基づく損害賠償請求の場合は損害や加害者の認知から3年、不法行為の実施から20年となっています。
時効が成立しているなら遺留分侵害額請求など、他のアプローチも視野に入れて専門家へ相談しましょう。
使い込みの証拠がない
財産の使い込みを法的に訴えるには確たる証拠が必要になります。十分な証拠がない場合は回収の見込みも立たないので留意しましょう。
前述の取引明細書も証拠の一部ですが、それだけでは十分とは言えません。状況によって被相続人や使い込んだ当人に関する資料が必要なので、弁護士と相談しながら可能な限り証拠を集めましょう。
相手が資産を持っていない
法的に使い込みが認められても、相手が返還するための資産を持っていない場合は事実上回収できなくなります。当人の資産があるうちに口座凍結や仮差押さえといった対策をとることが重要なので、なるべく早い段階で弁護士に相談するのがおすすめです。
事前に不正な使い込みを防ぐための対策
不正な使い込みにはいくつか予防策も存在するのでここに紹介します。
遺言書を作成しておく
財産相続に関しては被相続人の意思が尊重されるため、遺言書を作成しておくとトラブル防止に効果的です。遺言書には大きく分けて自筆証書遺言と公正証書遺言の2種類が存在するので、状況に応じて適したものを作成・保管しましょう。
財産目録を作成しておく
相続予定の財産は被相続人が存命のうちに財産目録として一覧にしておくのがおすすめです。被相続人や一部の人しか知らない財産が遺される心配がないため、万が一使い込まれても早期発見が可能になります。
被相続人に成年後見人を就ける
被相続人が認知症や重篤な病気にかかっている場合は、成年後見人を就けることがトラブル防止に繋がります。成年後見人は相続財産の管理状況を家庭裁判所に報告する義務があるのです。
制度の詳細や選任方法は以下を参照してください。
弁護士や信託銀行などの専門職に信託を預けることも可能
被相続人の財産が多額な場合は、一部を弁護士や信託銀行に信託することも可能です。預けていない預貯金は家族後見人が管理し、信託した分を払い戻す際は裁判所の指示書が必要になります。この制度を「後見制度支援信託」と呼ぶので覚えておきましょう。
相続財産の使い込みは予防や早期の対策が重要!専門的な手続きは弁護士を頼ろう
相続財産の使い込みは金銭的な損害だけでなく、今後の親族間の関係性にも影響を及ぼす可能性が高いです。無用なトラブルを避けるためには、遺言書の作成や成年後見人の指名が有効と言えます。
もし使い込みが発覚した場合は、できるだけ迅速に対処がすることが重要です。法律的な知識が必要になる書類作成や手続きも多いので、思い悩まず弁護士に相談して早期解決を目指してください。