コラム

学費の特別受益とは、遺産分割で特別受益と認められる事例を紹介

2022.04.08

学費の特別受益とは、遺産分割で特別受益と認められる事例を紹介

学費の特別受益とは、遺産分割で特別受益と認められる事例を紹介

こんにちは。船橋・習志野台法律事務所の弁護士中村です。今回は相続の相談で多い特別受益について解説します。

特に大学以降の高等教育の学費については、奨学金などで自己負担をした相続人、高卒ですぐに就職した相続人、と親からの援助で大学に行かせてもらった相続人との間で不公平感が生まれやすいです。

ただ、昭和50年頃から首都圏を中心に大学進学率が高くなり、大学進学それ自体が特別な出来事とは評価しづらくなっています。

こうした大学進学の現代社会での意味づけを前提にすると、大学の学費を親が援助したというだけで、特別受益が認められにくくなっています。

そこで本記事では、特別受益とは何か、そしてどのような場合に適用されるのかの具体例を解説していきます。

そもそも「特別受益」とは

そもそも「特別受益」とは

「特別受益」とは、生計の資本となる金銭や財産の給付、あるいは、結婚や養子縁組をきっかけとする生活資金の給付を被相続人から相続人へ交付することをいいます。

特別受益を受領した相続人は、他の相続人との比較で遺産の前渡しにより利益を受けたといえるので、相続開始の段階で特別受益に相当する金額を遺産に戻して遺産分割を実施することになります。

単に遊ぶためのお金を数百万円もらったとしても、それは生計の資本(つまり、生活をなり立たせるのに必要なお金)とはいえず、その場限りのお金であるから、あえて、相続開始の時点になってから、遺産に戻す必要はありません。

大学の学費は、大卒が就職にとって重要なので生計の資本に該当するように思えますが、一方で、親の扶養義務として親が子どもの大学の学費を負担することは社会常識として相当と評価できます。

そのため、親による学費の援助が親の社会的地位や他の共同相続人への援助の状況などを勘案して、特定の相続人だけが利益を受けたといえる場合にのみ「特別受益」に該当します。

特別受益に該当する可能性がある具体例

特別受益に該当する可能性がある具体例

共同相続人の一人だけが私立の医学部の学費を援助してもらった場合

共同相続人3人がともに大学に進学したものの、2人は国立大学へ自ら奨学金を借りて進学したが、1人は私立の医学部に進学して1000万円以上の被相続人からの援助を得ていた場合、特別受益に該当する可能性が高いです。

まず、他の2人は自己負担での進学であることに対して、1人だけ多額の援助を受けておりそれ自体で親の扶養義務を超えた援助と言いやすいです。

加えて、医学部進学は将来医師という高収入の可能性の高い職業に直結する点で他の2人の医学部以外への進学との比較でも生計に対する直接的な援助といえるでしょう。

もっとも、被相続人の資産が億単位の多額であって学費の援助が親の所得水準からいって扶養の範囲と評価できる場合には、たとえ1人だけが私立の医学部へ進学したとしても特別受益に該当しない可能性があります。

また、被相続人が開業医でその後継のために相続人が私立の医学部へ進学した場合は、被相続人の強い意向を受けての学費の支出であって、特別受益に該当しない可能性が高くなります。

被相続人の孫へ大学の学費を援助する場合

被相続人が自分の子(相続人)ではなく、孫へ学費を援助していた場合、孫自身は相続人ではないので、特別受益に該当しない場合が多いでしょう。

もっとも、被相続人である子が、孫の大学進学直前に失業するなどして経済的に困窮して扶養義務を果たせなくなった代わりに、被相続人が学費を援助した場合には、特別受益に該当します。

子の扶養義務を被相続人が肩代わりしたことになるので、子の生計に関わる資金を援助したと評価できるからです。

しかし、このような事例は稀であり、相続人自身ではない孫への学費援助は特別受益に該当する可能性は低いでしょう。

仮に、孫が親(被相続人の子)の収入状況にそぐわない高額な学費のかかる大学へ進学したとしても、孫が当初から被相続人の資産を当てにして受験勉強をしていた場合には、被相続人から孫への直接の贈与となり、相続人への贈与とはいえなくなります。

そして、相続開始時点では被相続人は死亡しているので学費援助の経緯を説明できず、それができるのは孫だけになり、当然、孫は自身の親に有利な証言をするので、この点からも特別受益に該当しにくいでしょう。

海外留学の費用を援助する場合

共同相続人3人が全員大学へ進学して学費は全て被相続人が負担していたとします。

ただ、そのうち1人だけが海外の大学へ留学し被相続人はその学費や海外での生活費も援助していた場合には、高額な援助になるため、特別受益に該当する可能性があります。

もっとも、海外留学が就職にとってどれだけ有利になるか不明瞭な部分が多いです。例えば海外の音楽大学へ留学して卒業後に演奏家になる場合にはまさに就職に直結するものであって、留学費用が特別受益と認定されやすいでしょう。

しかし、海外留学後、帰国して普通の企業に就職する場合、留学は単なるモラトリアムとなっている可能性が高く、就職のための金銭援助とは言い難くなってしまいます。

そのため、海外留学の費用については、留学に至った経緯が特別受益該当性において重要でしょう。

【まとめ】大学の学費援助は被相続人の親としての扶養義務の範囲といえるかが重要

大学の学費援助は、単に共同相続人の1人だけが大学に進学して学費を援助してもらったというだけで、特別受益に該当するわけではありません。

昭和の終わりころから、子どもを大学に進学させるのは親の扶養義務の範囲とする社会常識が定着しており、学費の援助は必ずしも特別な援助とは言い難いからです。

そのため、被相続人(親)の資産、所得、職業から、扶養義務の範囲を超えた過度な援助と言える場合のみ、特別受益に該当することになります。

具体例としていくつかあげましたが、孫への学費援助は、子に対する扶養義務と無関係な場合が多いため、特別受益に該当しにくくなります。

結局、単に共同相続人の1人だけが多くの学費援助を受けたということは特別受益の根拠にはなりにくいです。

被相続人にとって格別な負担となり、かつ、それが相続人の生活上の利益に繋がる場合に、初めて、遺産の前渡しと評価され、特別受益に該当するのです。

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