コラム
種類別に解説!相続人への財産分配の考え方
2023.09.25
種類別に解説!相続人への財産分配の考え方
船橋習志野台法律事務所の弁護士の中村です。
亡くなった人の財産にはプラスの財産とマイナスの財産両方があります。
プラスの財産は、預貯金、生命保険、不動産、株式、死亡退職金など相続人が財産として相続するもの。
マイナスの財産は、亡くなった方が抱えていた住宅ローンや事業資金の借り入れ、消費者金融の借り入れなど相続人が債務として相続するものです。このような財産は、どちらも相続放棄しなければ相続人へ分配されるのでしょうか?
本記事では財産の分配についての考え方と各財産(預貯金、不動産、生命保険など)の分配の考え方を解説していきます。
目次
被相続人の財産は2種類に分けられる
実は、被相続人の財産は一見同じように見えても、法律上「遺産」と「相続財産」の2種類に分けられます。
- 遺産:相続人全員が相続権を持つ財産。法律上、分配(遺産分割協議)の対象となるもの。
- 相続財産:相続人以外の人へ自動的に帰属する財産。
と区別されています。
同じように経済的価値を有する財産なので、このような区別は意味がないと思えるかもしれません。しかし、遺産分割協議がまとまらず、家庭裁判所への調停申し立てがなされ、それでも合意できず、審判言い渡しとなった時点でこの区別が重要となります。
代表的な財産の区別について
不動産、株式、絵画・骨董品、貴金属など
不動産、株式、絵画・骨董品、貴金属などは、遺産の典型的な例です。
被相続人が生前から所持している財産で、亡くなった後も存在するものです。その場合は「遺産」とみなされるため、遺産分割協議を行い、相続人間で分割をする必要があります。
遺産分割協議がまとまらず、加点裁判所へ申し立てを行った場合は、家庭裁判所がどの相続人に財産が帰属するかを決定します。
不動産の家賃や株式の配当金など
不動産や株式は、被相続人が亡くなった後相続財産となります。
しかし、所有している不動産を賃貸に出している場合や、株式を保有していた場合は被相続人死亡後も家賃収入や配当金が発生します。
家賃収入や株式の配当金は、分配(遺産分割)を行わずに取得できるのでしょうか?
ケース別に解説いたします
不動産の家賃収入
家賃収入は、被相続人の生前から存在していた財産ではありません。被相続人の死亡後に発生した収益であるため、遺産分割を待たずに、各相続人の法定相続分に従って自動的に分配されます。
そのため、不動産を相続した相続人は、家賃収入を単独で取得することはできません。他の相続人に対して、家賃収入の分配を請求する必要があります。
株式の配当金
配当金は、被相続人の死亡後に発生した財産ですが、遺産ではありません。配当金は、株式の所有者に帰属する権利であり、被相続人の死亡によって、この権利が相続人に移転することになります。
そのため、配当金は遺産分割を待たずに、各相続人が取得することができます。
相続人が保管しているケースが多い
遺産分割協議では、相続人の誰かが保管して置き、遺産分割協議の成立時に財産の分配方法も協議する場合は多いです。
話し合いがまとまらず、家庭裁判所が遺産分割の審判を言い渡すことにになった場合、相続開始以降の家賃や配当金は遺産でない以上、審判で決められません。
相続人の1人が事実上、これらの収入を保管していた場合には、他の相続人は別途、地方裁判所に対して不当利得返還請求訴訟を提起しなければ、家賃・配当金を確保することができません。
現金・預貯金
現金や預貯金も、被相続人が亡くなった後相続財産となります。しかし、遺産分割が成立しない場合は、相続人は銀行に対し払い戻し請求は原則できません。
現金
現金は被相続人の生前、死後を通じて変わらず存在しているため遺産に該当します。
そのため、遺産分割が成立していなくても相続人は現金を取得することが可能です。
預貯金
預貯金は被相続人の死後初めて貯金契約が解除され銀行から返還されるものです。
しかし、預貯金はATMを通じていつでも払い戻しができるため現金と扱いは同様となります。
そのため、遺産分割が成立しない限りは払い戻し請求ができないとされています。
民法の改正で暫定的な払戻しが可能に
葬儀費用や、被相続人の生前の医療費の支払いなど、遺産から充填する場合が高い場合の経費の支払いは遺産分割が成立していなくても暫定的な払戻しが可能です。
民法の改正によって、貯金金額を基準に最大150万円まで相続人の1人が単独で払い戻しすることができるようになっています。
保険金、出資金など
生命保険の死亡保険金
生命保険の死亡保険金は、被相続人の生前に存在するものではなく、被相続人が死亡することで初めて発生するものなので、被相続人の遺産ではありません。
そのため、保険契約上、受取人が指定されていれば、当該受取人が単独で保険金を取得します。受取人が指定されていなければ、保険会社の約款の内容次第で、家賃や配当金同様に自動的に法定相続分に沿って按分されることになります。
信用金庫やJA共済などの出資金
また、信用金庫やJA共済などの出資金も、被相続人が死亡することで預託契約が解除になって出資金の返還請求権が発生するので、これも遺産ではありません。
生命保険金と違って、被相続人が払い込んだ出資金が原資である以上、遺産として扱うべきようにも見えるのですが、家庭裁判所の実務では、被相続人が解約しない限りは返還請求権が発生しません。
被相続人の死亡後に初めて発生する権利とみなして、法定相続分に沿って自動的に各相続人が取得する扱いとしています。
しかし、金融機関の実務上は、出資金の返還請求権も預貯金の払戻し請求権同様に、相続人全員の同意(払戻し請求書に相続人全員の実印が押印されている状態)がなければ、払戻し請求に応じないことになっています。
この点が生命保険金が受取人の単独請求で受領できるのと大きく違っています。
相続人同士の合意がないと遺産の対象外となる
出資金については相続人同士で遺産分割協議が成立していない状態で、家庭裁判所が審判を言い渡した場合、遺産の対象外となり誰が取得をするのかを決められないことになります。
つまり、出資金は相続人同士の合意が得られない場合、地方裁判所への払戻し訴訟を提起しなければ受け取ることが出来ません。
【まとめ】遺産分割は安易に審判に頼らないことが大事
亡くなった人のプラスの財産とマイナスの財産それぞれの分配、遺産分割協議について解説いたしました。
こうしてみると、家庭裁判所の審判で全ての財産の帰属が決められるわけでないことが分かります。
特に被相続人名義のアパートの家賃が多額に及ぶ場合、審判になってしまうと、事実上管理している相続人が1人占めしてしまい他の相続人が確保できなくなってしまう恐れがあります。出資金も審判では分配方法を決められないので、家庭裁判所の審判書を持って行っても金融機関は払戻しに応じてくれません。
したがって、家庭裁判所に遺産分割の調停を申立てて、話し合いがなかなか進まないとおもって審判に委ねても、決められない財産が相当数あります。
調停になれば、第三者である2人の調停委員も合意に向けた調整をしてくれるので、時間がかかるとしても、合意による調停成立を安易にあきらめるべきでないでしょう。