コラム

遺産分割未了の不動産:種類別問題点と解決策

2024.07.16

遺産分割未了の不動産:種類別問題点と解決策

遺産分割未了の不動産:種類別問題点と解決策

船橋習志野台法律事務所の弁護士、中村です。

相続における不動産は、相続登記が未了のまま、一部の相続人が長期に渡って管理を続けているケースが少なくありません。預金と異なり、不動産そのものを物理的に分割できないことや、一部の相続人が居住している場合などは売却による代金分配も困難なため、数十年に渡って遺産分割が未了のまま放置されてしまうこともあります。

本コラムでは、遺産分割が未了のまま長期間経過した不動産の扱いについて、4つのパターンに分けて解説します。遺産の不動産の時効取得についても合わせて解説しますので合わせてご検討ください。

1.被相続人の自宅

被相続人の自宅について、相続登記が未了のまま長期間放置すると、様々な問題が発生します。以下では、主な問題点と解決策について詳しく解説します。

費用負担の不公平

相続登記が未了の間は、自宅は共有財産となります。そのため、固定資産税や修繕費などの維持費は、法定相続分に応じて全ての相続人が分担する義務があります。

しかし、実際には居住している相続人だけが費用を負担しているケースが多く、不公平な状況が生じてしまいます。

遺産分割協議を行い、自宅を特定の相続人が取得することになれば、その後の費用負担は取得者のみが責任を負うことになります。また、過去に支払ってきた固定資産税等の清算も可能になります。

居住中の相続人への家賃請求

被相続人と同居していた相続人が、遺産分割未了のまま自宅に住み続ける場合、他の相続人から家賃を請求される可能性があります。しかし、居住していた期間中は、法的に共有していた期間に該当するため、家賃請求は認められません。

売却や賃貸の制限

相続登記が未了の場合、自宅を売却したり賃貸に出したりするには、全ての相続人の同意が必要となります。そのため、全員の合意が得られなければ、売却や賃貸が困難になり、現金化や有効活用が妨げられる可能性があります。
遺産分割協議を行い、自宅を特定の相続人に分配することで、その相続人は単独で売却や賃貸が可能になります。また、遺産分割協議で売却方法などを事前に決めておくことで、スムーズな手続きが可能になります。

所有権移転の遅延

相続登記が未了の場合、自宅の名義変更ができないため、買主や借主に対して所有権を移転することができません。これは、売買や賃貸契約の際に大きな問題となります。

遺産分割協議を行い、自宅を特定の相続人に分配することで、その相続人が登記名義人となり、所有権移転が可能になります。

相続人間のトラブル

相続登記が未了のまま長期間放置していると、相続人間で意見の食い違いが生じ、トラブルに発展する可能性があります。特に、自宅の取り扱いについては、感情的な対立も起こりやすく、解決が困難になるケースもあります。

早めに遺産分割協議を行い、自宅の取り扱いについて合意を形成しておくことが重要です。弁護士などの専門家に相談し、円満な解決を目指しましょう。

2.アパートなどの収益物件

不動産登記権利情報などの書類

被相続人の遺産にアパートやオフィスビルなどの収益物件が含まれている場合、相続登記が未了のまま放置すると、様々な問題が発生する可能性があります。

以下では、主な問題点と解決策について詳しく解説します。

家賃の扱い

家賃は遺産とは独立した財産であり、毎月の家賃が法定相続分に応じて各相続人に帰属します。そのため、一人の相続人が家賃を独占することはできず、他の相続人から分配を求められる可能性があります。

また、家賃収入から固定資産税や修繕費などの経費を差し引いた残額を分配する必要があります。ただし、毎月分配するのは煩雑なため、一人が家賃を一括管理してプールし、そこから経費を支払うのが一般的です。

家賃収入が高額な場合は、事業所得や不動産所得となり、各相続人に課税されます。年金や公的扶助を受給している相続人がいる場合は、収益物件の所得が受給要件を満たさなくならないよう注意が必要です。

新規貸契約

新規の賃貸契約を締結するには、各相続人の法定相続分を基準に、過半数の相続分の同意が必要となります。賃借人候補の資力に難がある、孤独死のリスクがある入居予定者などの場合には相続人間で十分に協議しましょう。

遺産分割後の所有権と経費の分担

遺産分割の結果、収益物件を単独相続する人が決まれば、その時点で家賃全額を受領できるようになります。ただし、所有権の取得は相続開始時点に遡るため、過去の家賃を他の相続人から取り戻すことはできません。

一方、固定資産税や修繕費などの経費は、本来は単独相続人が負担すべきものです。そのため、過去の経費を他の相続人から遡って清算を求められる可能性があります。

遺産分割協議や調停で清算条項を設けていれば問題ありませんが、家庭裁判所の審判で単独取得した場合には、別途、経費の分担を求められる可能性があります。

3.農地を相続した場合

被相続人の遺産に農地が含まれている場合、後継者となる相続人が農地を継承し、農業を継続するのが一般的です。

しかし、様々な事情で後継者選定が難航したり、将来の農地転用による売却益の分配を巡って意見が対立したりする場合があります。

遺産分割協議未了の場合

後継者が遺産分割で農地を単独取得すれば、固定資産税は相続開始時に遡って負担する形で清算し、引き続き農業を営むことになります。ただし、農地の経済的価値が高く、後継者が代償金を支払う能力がない場合は、競売にかけられるか、個々の農地を各相続分に応じて分割される可能性があります。

後継者が農地を取得していない場合は、取得した相続人に賃貸借契約を結んで地代を払うことが望ましいです。

それでもできない場合は、取得した相続人に明け渡して農業を廃業する必要 が生じる可能性があります。

遺産分割後の所有権と経費の分担

後継者が遺産分割で農地を単独取得すれば、固定資産税は相続開始時に遡って負担する形で清算し、引き続き農業を営むことになります。

ただし、農地の経済的価値が高く、後継者が代償金を支払う能力がない場合は、競売にかけられるか、個々の農地を各相続分に応じて分割される可能性があります。

後継者が農地を取得していない場合は、取得した相続人に賃貸借契約を結んで地代を払うことが望ましいです。

それでもできない場合は、取得した相続人に明け渡して農業を廃業する必要が生じる可能性があります。

4.農地以外の事業用不動産について

事業用不動産のイメージ

被相続人が個人事業で使用していた建物などの不動産について、相続登記が未了のまま放置すると、様々な問題が発生する可能性があります。

以下では、主な問題点と解決策について詳しく解説します。

後継者と他の相続人の権利

農地と同様に、後継者となる相続人がいれば、遺産分割成立までは他の相続人から家賃を請求されることなく、事業として当該建物を利用できます。ただし、以下の点に注意が必要です。

後継事業の定義

後継事業とは、被相続人が営んでいた事業と同種のもの、または類似の事業を指します。具体的には、業種、事業内容、規模などを総合的に判断して決定されます。

被相続人の生前の意思

生前に被相続人が異なる事業での使用を認めていたとしても、それが単なる口頭での許可であったり、限定的な範囲での使用を認めていた場合などは、後継事業とは認められない可能性があります。

以下の方法で、後継者と他の相続人の間でトラブルを回避することができます。

  • 遺産分割協議で後継事業を明確に定義する
  • 弁護士などの専門家に相談する

明渡請求

被相続人の死亡後に後継事業とは異なる事業を立ち上げて遺産の建物を使ってしまうと、不法占有に該当する恐れがあり、他の相続人の持ち分が過半数を占めれば、遺産分割が未了の時点でも他の相続人らから民事裁判を提起され明渡を求められるリスクがあります。

後継者が被相続人の事業を継承しない場合は、他の相続人と協議して、事業用不動産の利用方法を決定する必要があります。合意が得られない場合は、弁護士などの専門家に相談する必要があります。

遺産である不動産の時効取得について

遺産分割協議のイメージ

遺産分割が未了のまま、一定期間が経過すると、占有している相続人が時効取得によって所有権を取得できる可能性があります。しかし、時効取得には厳しい要件を満たす必要があり、必ずしも成立するわけではありません。

時効取得の要件

遺産である不動産の時効取得には、以下の要件を20年間継続する必要があります。

  • 平穏かつ公然な占有: 周囲に所有権を主張する者がいない状態での占有が必要です。
  • 善意・無過失: 不動産が他人のものであることを知らないで占有している必要があります。
  • 登記簿に所有権が登記されていないこと: 不動産の名義が被相続人のままである必要があります。

単独所有者としての振る舞い

上記に加え、占有者は単独所有者としての振る舞いをしている必要があります。具体的には、以下の行為が該当します。

  • 固定資産税や修繕費などの維持管理費を単独で負担する。
  • 他の相続人が遺産分割を申し入れても無視する。
  • 不動産を自由に処分する(売却、賃貸など)。

被相続人の事業継承

被相続人の事業を継承し、事業用不動産として使用している場合、時効取得が認められやすい傾向があります。これは、事業継続という社会的な利益を保護するためです。ただし、被相続人の事業などと無関係に単に被相続人の実家に長期間居住しているだけだと、単なる占有者としての振る舞いに過ぎず、時効の要件は満たしません。

もっとも、管理していない相続人の視点からすると、放置することで事実上の占有者による時効取得のリスクが0ではありません。

そのため、それを避けるために遺産分割協議の申し入れ、遺産分割の調停の申立をして、一人の相続人が使っている不動産が遺産であることを認識させることが重要です。

まとめ

遺産分割が未了のまま長期間放置していると、様々な問題が発生する可能性があります。特に、不動産の場合には、預金と異なり家賃収入や経費が発生したり、事業用として使用されたりするなど、複雑な事情が絡み、問題が深刻化する傾向があります。

農地のような流動性の乏しい不動産であっても、後継者の単独所有としつつ、代償金を分割で支払ったり、賃貸契約を締結させるなど、いろいろな方法があります。ぜひ、弁護士へご相談ください。

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