コラム

遺留分侵害額請求権の行使方法と消滅時効

2024.06.27

遺留分侵害額請求権の行使方法と消滅時効

遺留分侵害額請求権の行使方法と消滅時効

船橋習志野台法律事務所の弁護士の中村です。

以前のコラムで遺留分の算定方法について解説しました。今回は、遺留分侵害額請求権を具体的に実現する方法と消滅時効について解説します。

消滅時効について

消滅時効とは、一定期間権利を行使しない場合に、その権利を消滅させる制度です。

消滅時効については、最初の遺留分侵害額請求をする意思表示と、その次の段階の遺留分侵害額請求権行使の結果、獲得する具体的な金銭請求権、それぞれで消滅時効の起算が異なるので注意が必要です。

遺留分侵害額とは

遺留分侵害額とは、遺留分を侵害された法定相続人が、受遺者に対して請求できる金銭債権です。

遺留分は、法定相続分の半分に対して遺産に対する最低限の権利として確保されるものです。

遺留分侵害額の算定方法

遺留分侵害額は、以下の式で算出できます。

遺留分侵害額 = (遺留分率 × 相続財産価額) – (相続財産のうち自己が取得した財産価額)

遺留分侵害額の具体的なイメージ 

例えば、遺言書の内容が特定の相続人に全ての遺産を取得させるというものであれば、遺留分の金額算定は、全遺産総額に対して法定相続分の半分(被相続人の配偶者であれば、全遺産に対して4分の1に相当する金銭を請求できる)となることが明白です。

しかし、遺言書の内容が被相続人の自宅の土地建物を同居している長男に取得させるというものであれば、下記の項目がいずれも判明しない限り具体的な金銭債権になりません。

①全遺産を金銭に直した評価額
②全財産のうち自宅の不動産が占める評価額

遺留分侵害額請求の流れ

遺留分侵害額請求は、以下の2つのステップで実現できます。

ステップ1:遺留分を取り戻す意思表示

まず、遺留分を取り戻す意思があることを相手に伝える必要があります。これは、書面で行うのが一般的です。

ステップ2:金銭の請求

遺産の評価額が確定したら、具体的な金額を請求します。

遺留分侵害額請求権行使の意思表示

遺留分侵害額請求権行使の意思表示とは、遺留分侵害額請求権を放棄しないことを表明する行為です。

意思表示の方法

遺留分侵害額請求権行使の意思表示の典型的な方法は、裁判上の請求となります。

しかし、具体的な遺留分の金額が分からないうちに訴訟を提起することは事実上困難です。

そこで、通常は、遺留分を侵害する可能性のある遺言書の存在を知った時点で、受遺者に対して内容証明郵便を送ることで、権利行使の意思表示を行います。

内容証明郵便の重要性

遺留分侵害額請求権は、遺留分を侵害する遺言書の存在を知った時から1年で時効で消滅します。

そのため、権利行使の意思表示をしたことを証拠に残すことが重要であり、そのために内容証明郵便を利用する必要があります。

遺留分侵害の具体的な金銭請求の方法

遺留分侵害額の請求権行使の意思表示

まず、遺留分侵害額の請求権を放棄しないことを表明する必要があります。これは、通常、内容証明郵便で相手方に行います。

遺留分の具体的な金額の算定・支払いの請求

請求権を根拠に、遺産分割協議または遺産分割調停の中で、具体的な遺留分の金額を算定します。具体的な金額が確定したら、相手方に金銭の支払いを請求します。

遺産分割協議

相続人全員が話し合いを行い、遺産の評価方法、分割方法、遺留分の金額などを合意する解決方法です。

協議がまとまれば、遺産分割協議書を作成し、署名・捺印することで解決となります。

費用がかからず、円満に解決できる可能性が高い点や、第三者を介入させずに、相続人同士で解決できるため柔軟な解決が可能となる点がメリットでしょう。

なお、遺産分割協議の争点が遺留分そのものでなく、遺産を構成する不動産の評価方法であったり、分割方法自体である場合や、遺留分侵害額請求の調停を申立をする必要性に乏しく、遺産分割調停の中での解決を図ることになります。

遺産分割調停

家庭裁判所に申立てを行い、調停委員の助けを借りて解決する方法です。 話し合いがまとまらない場合に有効です。調停が成立すれば、調停調書を作成し、解決となります。

話し合いよりも解決率が高く、法的な効力があるため、後のトラブルになりにくい点がメリットで、比較的費用を抑えられるのも魅力です。

調停が不成立の場合、訴訟に発展する可能性があります。

遺留分に基づく金銭請求権の消滅時効について

遺留分侵害額請求権の意思表示をすることで、受遺者に対する具体的な金銭請求権が発生することになります。

この金銭請求権は一般債権になるので、債権の消滅時効の期間の5年の経過により、時効により消滅することになります。

そのため、一度、遺留分侵害額請求の意思表示をしてから、遺産分割協議や調停をしているうちに5年が経過してしまうと、遺留分に基づく金銭請求権が消滅する恐れがあります。

遺留分の具体的な金額の算定が困難な場合も

遺産の多くを評価が難しい農地で占められている場合、遺留分の具体的な金額を算定することが困難になります。

例えば、農地を全て後継の相続人に取得させる遺言書があるが、預金が1000万円ほどあってこれについて全く言及がない場合、農地の評価が定まらない限り、遺留分の具体的な算定ができません

農地の評価額が定まった時点が消滅時効の起算点となる場合

この場合、農地の評価額が定まった時点で、遺留分の具体的な金銭請求権の消滅時効の起算点になると解釈することもできます。

つまり、農地の評価が完了するまで、消滅時効の起算点が先延ばしになる可能性があります。

農地の評価額が争いの余地がない場合の解釈

ただし、以下の条件を満たす場合は、農地の評価額が定まった時点ではなく、一番最初の受遺者に権利行使の意思表示が到達した時点で消滅時効の起算点となる解釈も十分に可能です。

  • 農地が現況で農業利用されていることが明らかである
  • 宅地転用ができない
  • 市場価格が形成できない
  • 固定資産評価額に依存せざるを得ない
  • 評価額の争いの余地がない

ようするに、遺留分侵害額請求権は遺言書をしってから1年以内にその行使の意思表示をすれば、万全というわけではなく、遺産分割そのものの話し合いの長期化により、常に消滅時効で具体的な金銭請求権自体がなくなってしまうリスクがあります。

そのため、話し合いが長期化すると判断した場合、速やかに遺留分侵害額請求の訴訟を提起すべきでしょう。訴訟提起には消滅時効の期間を中断して、取下げをしない限り、時効による消滅を回避できる効果があります。

遺留分侵害額請求の訴訟提起の方法

遺留分侵害額についてその有無や具体的な金額に争いがある場合、最終的には遺留分侵害額請求訴訟の提起により、裁判所の判決によって実現することができます。

調停

いきなり訴訟を提起することはできないため、遺留分侵害額請求訴訟を提起する前に、家庭裁判所に調停を申立て、裁判所を通じた話し合いを行う必要があります。

調停は、裁判所の判断を仰がずに、当事者間で話し合いによって解決を目指す手続きです。

調停での話し合いも決裂すれば、調停は不成立となって終了します。

訴訟

調停が不成立となった場合、遺留分権利者から受遺者に対して、地方裁判所(請求金額が140万円以下なら簡易裁判所)へ遺留分侵害額請求訴訟を提起します。

調停が不成立になっても自動的に訴訟に移行しないこと、管轄裁判所は家庭裁判所でなく地方裁判所(又は簡易裁判所)であることに注意しましょう。

遺留分侵害額請求訴訟の最も重要な機能は、遺留分に基づく金銭請求権の5年の消滅時効を中断することです。つまり、訴訟を提起することで、金銭請求権を失ってしまうのを防ぐことができます。

請求漏れを防ぐ

訴訟提起時点で、遺留分の具体的な算定を完璧にして請求漏れがないようにすることが重要です。

ただし、訴訟提起時点で遺留分額の全容が判明しなくても、訴訟提起後に、審理半ばの段階であれば、請求金額を加算する訴えの変更等の手続をすることができます。

まとめ|遺留分侵害額請求は2段階に分けて考えましょう

今回は、遺留分侵害額請求の訴訟提起の方法たしました。

遺留分侵害額請求は下記の2段階に分けて考えることがオススメです。

  • 権利行使の意思表示
  • 具体的な金銭請求

権利行使の意思表示では、相続開始から1年以内に、受遺者に対して内容証明郵便で遺留分侵害額請求の意思表示をする。

具体的な金銭請求では、遺産分割協議や調停を通じて、話し合いによる解決を目指し、話し合いが長引きそうであれば、調停や訴訟を視野に入れた準備を進めましょう。

遺留分侵害額請求は、複雑な制度であり、専門的な知識が必要となります。遺留分侵害額請求に関するご相談は、船橋習志野台法律事務所までお気軽にお問い合わせください。

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