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習志野台11街区の建替え紛争の概要

事案の概要

事案の概要

習志野台11街区(旧日本住宅公団が昭和44年に分譲開始し、6棟210戸で構成される団地)にて、団地内の建物の一括建替え決議が平成31年3月に初めて議題にあがり、この時は6票差で否決されました。そして、令和2年9月12日に、再度、平成31年3月時点と同じ建替え計画で臨時総会を開催して、1票差で可決されました。

一括建替え決議は団地全体の区分所有者の5分の4以上の賛成と各棟ごとに最低3分の2以上の賛成があって可決されます。令和2年9月12日の議決は、全201人の区分所有者に対して161人の賛成票が必要なところちょうど161人の賛成で可決されました。そして、棟別の議決については3号棟がちょうど3分の2の27人が賛成しました。

しかし、賛成票の数え方次第で否決されることになるため、反対した区分所有者14名13世帯が原告となって建替え決議無効確認訴訟を提起しました。票の数え方以外にも、これから述べるように争点が多岐にわたります。

令和5年3月27日、第一審の判決が言い渡され、決議は有効と判断されました。これに対して14名12世帯が控訴し、これから審理は東京高等裁判所で行われます。判決の内容については、判決文のPDF、及び、「判決文の概要」のPDFをご参照ください。

争点

争点

賛成票の数え方

  • 当初賛成票を提出した人が自前の投票用紙で反対票を提出したので、これが賛成か反対か
  • 反対運動に署名していた区分所有者の娘が代筆した賛成票が有効か
  • 相続が発生した区分所有権の遺産分割がまだ決まらないうちに、共同相続人の一人だけの署名押印による賛成票が有効か
  • 賛成5反対5と記載した区分所有者に組合執行部から書き直しを促して、賛成票を出し直したことは有効か

事業協力者による区分所有権の購入

事業協力者とは、建替え後の新しいマンションの住戸の販売の権利を得る事との引き換えに、建替え決議前の段階から建替え事業に関わり、建替え計画案の調査・設計費用等を負担する不動産開発業者のことをいいます。

習志野台11街区の建替えでは、1回目の決議否決から2回目の決議の可決までの間に、事業協力者が複数の区分所有権を購入しています。

1票差での可決であることから、1回目の決議に反対した区分所有者から集中的に購入したとすれば、団地の住民でないうえに、建替えについて強い利害関係を持つ事業協力者の区分所有権の購入により可決したかもしれず、手続が不公正として、決議が無効となるかどうかが争点となりました。

投票用紙の事前開封について

建替えのコンサル会社により決議前に投票用紙が事前開封されて、団地の管理事務所内の金庫に保管されていました。

反対派からすると、事前開封による賛否の数が組合執行部だけに把握され、反対派との比較で効率的な賛成への働き掛けが出来たのではないかと疑問が呈されました。

なので、賛成派・反対派で決議に向けた運動面で不公平になり、事前開封により決議が無効になるか否かが争点となりました。

転出金の金額が妥当か

転出金とは、建替え後のマンションには住まないで転居していく区分所有差に支払う金銭です。区分所有者は団地の敷地の価値を共有持ち分に応じて把握しており、そこから既存のマンションを解体する費用を控除した金額が、新しいマンションに住む事を放棄した人に支払われる対価となります。

その転出金について、組合執行部が依頼した不動産鑑定士によると600万円前後なのに対して、反対者が独自に依頼した不動産鑑定によると900万円前後となりました。

3割程度の違いがあり、転出金が低いことは、団地を追い出される人の権利を不当に害するため、決議が無効になるのか否かが争点となりました。

建物全体の管理規約の有効性

団地の建替え決議は、たとえ1棟だけ5分の4の賛成がなくても3分の2の賛成が集まれば、団地全体で5分の4の賛成が集まれば、5分の4に足りない棟も含めて建替えが可能となります。

そのためには、管理規約で団地内の全ての建物を団地全体でカバーする管理組合の管理対象とすることが必要です。習志野台11街区では、団地成立当初の管理規約についてその点が不明で団地の建替えの要件を満たすのか否かが争点となりました。

紛争の背景

紛争の背景

以下に述べることは、基本的には訴訟の原告・控訴人(この決議による建替えに反対する人たち)とその代理人による主観が多分に混ざっていることが前提です。

説明会での情報の偏り

習志野台11街区では、コンサルとの契約以降、定期的に団地再生説明会が開催されました。説明会では、建替えの必要性に関する情報提供が多く、維持・修繕との比較の話があまりなかったように思えます。

また、建替えに対する消極的な意見を述べる機会があまりなく、建替えと維持修繕の比較を区分所有者同士で共有して議論することができなかったと思われます。

もちろん、コンサルとの契約と同時期に建替え推進決議がされているので、建替え推進に関わる情報が多くなるのは当然です。ただ、建替え推進といっても、今すぐの建替えを望む人だけでなく、10年後以降をめどと考える区分所有者もいます。

結局、コンサルと組合執行部が考える計画が唯一の団地再生の道との印象が強くなり、建替えに慎重な区分所有者が置き去りにされていきました。

建替えに伴う負担軽減が困難であること

習志野台11街区は建物の高さ20メートルの制限があり7階建てのマンションしか建てられません。また、隣接する習志野台3街区でも建替え事業が始まり3街区の方が駅に近く、同時期に販売を始めることで、11街区の販売戸数の見通しが楽観できない状況です。

そのため、今回の決議の計画案では2棟分の敷地を売却して366戸の建設に止まります。もともと、敷地の価値が郊外ゆえに東京都心に比べて区分所有者が把握する価値が乏しく、建替え後のマンションの販売戸数も大幅に増やせないため、新住戸を購入する負担がなかなか軽減できません。

そのため、新住戸の一般販売価格が3000万円だとすると区分所有者がこれを購入するには2000万円前後の自己資金の拠出が必要になります(専有部分が40㎡程度の住戸は自己負担が1000万円前後までにありますが、これは戸数が少なく、ほとんどの区分所有者は購入できないでしょう)。

高齢の区分所有者がこれを負担するのは容易でなく、まして、仮住まいの家賃を数年分負担したうえとなると、建替えに二の足を踏むのはやむを得ないことです。

コンサルや組合執行部がこの点に無関心だったとは言いませんが、負担緩和の方策としては、せいぜい融資の優遇程度で、購入資金を直接補助する仕組みはなく、結局は、築年数が経過した現在の団地をいち早く解体して、建替え後のマンションで若い世代を呼び込むことへの関心が圧倒的に強かったといえます。

この点においても、建替えに反対・慎重な区分所有者は置き去りにされたとの感覚が否めません。

コンサルから建替え計画について複数の選択肢が提示されなかったこと

今回の建替え決議の対象となる建替え計画案は、平成30年7月に素案として公表されました。それ以降、他の計画案が検討されることは全くなかったし、事業協力者もコンサルから複数の選択肢が提示されることなく、特定の3社の共同事業体のみが唯一の選択肢として提示されました。

唯一の選択肢として提示された建替え計画案は、外側の2つの棟がL字型となってL字の内側に位置する2棟を完全に塞ぐ配置となっています。

そのため、内側の2棟の日照や風通しなどの環境悪化が懸念されるところですが、他の計画案が提示されないため、比較検討ができず、建替えそのものが大事だという空気感に支配されていきました。そのため、建替えに慎重・反対する人が意見を言う場がほとんどなく、やはり、置き去りにされていきました。

決議に至る手続自体の公正さの問題

今回の建替え決議は原則、総会当日前に事前に書面による投票とされていました。そして、いったん、投票をしても、総会当日までは賛否の変更が認められることになっていました。しかし、投票を変更する方法を予め定めていませんでした。

そのため、一度、賛成票を出した人が総会当日に自前の投票用紙に反対と記載した紙を提出したが、組合執行部に拒否されることがありました。

反対派からすれば、投票用紙の書式は管理規約上も指定がなく総会運営規則のような取り決めもないので、提出を拒否される根拠がないとして、訴訟提起の直接の原因となりました。

一方で組合執行部は、組合だけが賛否の情勢を把握できる可能性がある投票用紙の事前開封を実施し、賛否不明瞭な票の再提出を促して、結果として、賛成票を稼いだと疑われる行動をしています。投票用紙の事前開封そのものだけでは、手続きの公正さをゆがめるわけではありません。

しかし、習志野台11街区については、1回目の決議が賛否拮抗の状態で否決されていること、上記(1)から(3)で述べたように多様な視点での議論がほとんどなされずコンサル・組合執行部が主導して一つの計画案のみに拘っていること、事前開封した投票用紙がどのように管理されていたか情報開示がなく漏洩の懸念が払しょくされていなかったことから、事前開封の実施に対する不信感が強かったのです。

決議以降の情報の開示拒否

今回の決議は1票差での可決だったにも拘わらず、組合執行部は投票用紙の開示は請求者自身の投票分だけ認めて、全体の開示は一切認めませんでした。

これは、原告代理人弁護士である私が介入してからも不開示の方針を貫いていました。建替えに反対する人達からすれば、やましいことをしているのではないかとの疑念が強くなり、訴訟提起に至る動機となりました。

まとめ

これまで指摘した組合執行部やコンサルの対応は、違法行為ということではありません。しかし、組合側からの一方的な発信のみで、決議に至ったものであり、「色々な意見はあったが最後は多数決で決まったことに従う」という民主主義の過程を見出すことはできません。

組合執行部とコンサルが重視したのは「個別面談」で決議に基づく建替え案に反対・慎重な立場の人とは個別に話を聴く形を徹底し、区分所有者同士の意見交換、勉強会の機会を作ろうとしなかったのです。

今回の訴訟の原因は、肝心な建替え計画の中身についての議論を避けた組合執行部・コンサルの態度にあるのです。

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