コラム

配偶者居住権の条件と効果|ポイントを分かりやすく解説

2024.02.26

配偶者居住権の条件と効果|ポイントを分かりやすく解説

知っておきたい!配偶者居住権の条件と効果

船橋習志野台法律事務所の弁護士の中村です。
令和2年4月の改正相続法が施行されてから3年が経ち、その改正法の目玉である「配偶者居住権」の相談も少しづつ増えてきました。

このコラムでは、遺産の分配を回避し配偶者がそのまま住み続けることができる配偶者居住権が認められる場合について解説します。

配偶者居住権とは

配偶者居住権とは

配偶者居住権は、亡くなった配偶者の所有していた建物に、残された配偶者が住み続けられる権利です。所有権は取得できませんが、家賃を払わずに住み続けることができます。

相続が始まるのが多い世代である80歳代、90歳代の方は、4~50年以上前に自宅を購入しているケースが多いです。この時期は国を挙げて住宅を供給したこともあり、現在と比較すると相当安価で自宅を購入、建築している場合が多いです。

そのため、相続開始時点における自宅の評価額が数千万円を超える一方、被相続人の預貯金が数百万円程度というケースは珍しくありません。

配偶者以外の相続人から法定相続分の権利主張をされると、自宅を売却して現金で遺産を分配するしかなくなりますが、生活の基盤である住み慣れた自宅を手放すことは、配偶者にとって大きな負担となります。

そのような事態を回避して、配偶者がそのまま住み続けられるための権利が配偶者居住権となります。

配偶者居住権が成立するための条件と注意点

配偶者居住権が成立するための条件

配偶者居住権が成立するための必須条件

配偶者居住権が成立するための必須条件は
・被相続人と法律上、婚姻していること
・被相続人の死亡時、遺産となる建物に配偶者が居住していること

です。
以下で詳しく解説していきます。

事実婚、内縁関係では配偶者居住権は発生しない

事実婚、内縁関係では「法律上の婚姻」でないため配偶者居住権が発生しません

法改正の過程で事実婚も含めるか議論はされたものの、日本の民法そのものが法律上の婚姻関係を事実婚より重視していることもあり、配偶者居住権を事実婚に適用することは見送られました。

被相続人の死亡時、遺産となる建物に配偶者が居住している

被相続人の遺産でない他の建物に居住している場合は、賃貸借や自らの所有などで配偶者が自力で居住建物を確保している以上、あえて相続をきっかけに居住権を与える必要がないからです。

注意点①被相続人と同居している必要はない

なお、被相続人の遺産に属する建物に居住していればよく、被相続人と同居している必要はありません

たとえ、同居していなくても、被相続人が自ら所有する建物に配偶者の居住を許可している関係を見出すことが出来ます。
相続開始によって強制的に解消されてしまうと、配偶者の居住が脅かされることとなるため、配偶者居住権により保護が必要であるという判断がなされます。

注意点②被相続人と第三者が共有していた建物には成立しない

もっとも、被相続人が配偶者以外の第三者と共有していた建物に配偶者が居住している場合には配偶者居住権は成立しません。
これが認められると、共有持ち分を有する第三者の所有権が不当に侵害されてしまうからです。

配偶者居住権を成立させるための手続き

配偶者居住権を成立させる手続き

次に、配偶者居住権を成立させるための手続きには以下の3つのパターンがあります。

結論から言うと、

  1. 遺産分割協議(共同相続人全員による合意)の成立 
  2. 被相続人が遺言書に配偶者居住権を記載する 
  3. 家庭裁判所による審判言い渡し

の3つのパターンがあります。

遺産分割協議(共同相続人全員による合意)の成立

遺産分割協議が成立し、全員で合意ができる場合。

配偶者が居住建物の所有権を取得する形で遺産分割協議が成立する可能性が高いため、あえて配偶者居住権を設定する必要性はないでしょう。

被相続人が遺言書に配偶者居住権を記載する

被相続人が遺言書に配偶者居住権を記載する場合は、被相続人が配偶者の居住を確保するために生前に準備できる手続です。

しかし、遺言書作成時点から相続開始時まで数年以上の時間が経過している場合、配偶者の居住意欲や状況が変わっている可能性があります。

遺言書を作成することで、居住建物を配偶者に単独所有させることも可能です。この場合、配偶者居住権設定よりも遺産の偏りが大きくなりますが、他の遺産との兼ね合いや寄与分などを考慮すれば、より適切な選択肢となる場合もあります。

家庭裁判所による審判言い渡し

配偶者が他の相続人の意向に反して配偶者居住権を主張する場合は、③の家庭裁判所の審判手続であることが多いといえます。しかし、民法で規定されている審判による配偶者居住権の設定は、

  • 共同相続人全員の合意
  • 建物所有者の不利益となっても配偶者の生活維持のために特に必要である

のどちらかのみです。

共同相続人全員の合意

共同相続人全員の合意は配偶者の建物居住では全員一致しているが他の遺産の分配で争いがあるというほとんど想定しがたい事例であり、あまり意味のない規定といえます。

配偶者の生活維持のために特に必要である場合

「配偶者の生活維持に特に必要な場合」という場合については、具体的にどのような場合を指すかまだ審判例の積み重ねがないため、現状は不透明と言えます。

おそらく、数十年以上の長期間にわたり遺産に属する建物に居住し、かつ配偶者に転居するだけの資産や相続分がなく遺産に属する建物以外に居住する選択肢がないような事例であれば、審判で認められる可能性は高そうです。

ただ、そうした事例でなければ、審判でどのような判断がなされるか全く予測できないと言っていいでしょう。

配偶者居住権の効果

配偶者居住権が設定されると、配偶者は終身(亡くなるまで)遺産に属する建物に無償で居住することができます。その他に「短期居住権」というのも改正相続法で認められていますが、本コラムでは割愛します。

配偶者居住権は配偶者にとっては端的に居住を確保できる強い権利になります。

そのため、配偶者居住権は無償ではなく、権利自体が一定の財産上の価値を有することになるため、配偶者居住権を取得することで価値の分だけ法定相続分の枠を使うことになります。

具体的な評価の方法は、法定耐用年数を元にした残存期間に対する配偶者の平均余命の占める割合から考慮して算出する方法が提示されていますが、確立した評価方法はありません。

このように、配偶者居住権は他の相続人の意向に反して家庭裁判所の審判によって設定される可能性について不透明であること、配偶者居住権の評価方法も確立しておらず法定相続分の枠内で取得可能か否かの予測が容易でないことから、遺産分割の調停・審判の場面で、広く主張されるとは思いません。

調停外で合意をする際に、「配偶者居住権」という制度があることを参考にして、遺産分割協議の成立を促進することはあり得るかもしれません。

まとめ

今回は、遺産の分配を回避し配偶者がそのまま住み続けることができる配偶者居住権が認められる条件や効果について解説いたしました。

配偶者以外の相続人から法定相続分の権利主張をされると、自宅を売却して現金で遺産を分配するしかなくなりますが、そのような事態を回避して配偶者がそのまま住み続けられるための権利が配偶者居住権となります。

配偶者居住権が成立する条件を満たしているかをしっかりと確認し、成立させるための手続きを行うことが大切です。不安なこと・お困りことがあればぜひ弁護士にご相談ください。

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