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コラム
相続財産と葬儀費用
【質問事例】
父が亡くなった際に、父が作った公正証書遺言が見つかりました。それによると、父と同居していた兄がその同居している自宅 の土地建物を取得し、その他の預金は全て私が取得するというものでした。
ところが、父の葬儀の喪主であった兄が、遺産の預金の中から葬儀費用を捻出して300万円を引き出してしまいました。そのため残った預金は200万円ほどになり、私の取り分が減ってしまいました。兄が取得する自宅の固定資産評価額は1000万円程度なので、納得できません。
喪主の兄は香典をもらっているはずであり、葬儀費用は兄に請求できないでしょうか?
【解説】
質問の事例では、1葬儀費用は誰が負担すべきか、2香典は相続財産たる遺産に含まれるか、の2つの問題を含んでいます。
以下、順番に解説します。
1 葬儀費用の負担
葬儀費用の負担のあり方は、①喪主が負担する、②相続財産から支出する、③共同相続人同士で分担する、の3つが主な考え方でしょう。最近の高等裁判所の裁判例では、①の考え方を採用したものがありますが、常に喪主が負担しなければならないというものではありません。通常は相続人同士の合意で相続財産から支出することが多いでしょう。
2 香典の取扱
香典の性質は、葬儀費用を会葬者同士で分担する相互扶助の考え方に基いて、喪主に支給されるものです。なので、香典は遺産に含まれるものではなく、あくまで、喪主の固有財産です。
したがって、香典を葬儀費用に充てるか、他に(例えば、49日法要等)使うかは、喪主が自由に決められます。
3 質問事例への当てはめ
質問の事例では、遺言で弟さんは預金しか取得できず、兄は預金より価値のある自宅を取得できます。そうすると、預金か ら葬儀費を支出することは、弟さんの取り分のみを一方的に減 らすことになり、弟さんの同意なく、預金から葬儀費用を支出できないと考えるべきでしょう。
そうすると、葬儀費用は兄弟で分担するか、喪主の兄が単独で負担すべきであって、質問事例では相続人である兄弟間で合意がないので、喪主である兄が葬儀費用を負担することになります。
よって、弟から兄に対して葬儀費用300万円の支払い請 求ができると考えられます。もっとも、預金の額との比較で、葬儀費用が小さければ、被相続人に相応の葬儀を実施したとのことで、相続財産からの支出が黙認されるという考え方もあります。