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コラム
遺言書があると言われたら?
質問事例
先日、父が亡くなりました。葬儀が終わって、2週間ほど、して、父と同居していた姉から、「父が遺言書を書いてくれておりこれによって、遺産である父と同居していた自宅と預貯金の半分が私の物になる」と言われました。
私は、父と同居はしていなかったのですが、数ヶ月に1度くらいは、訪れており、亡くなる数ヶ月前は頻繁に入院先へ見舞いに行っていました。そうした状況で父からは遺言書の話を全く聞いていなかったので姉が嘘をついていると思い、遺言書があるなら見せてもらうように言いました。
しかし、姉からは「見せる必要はない」の一点張りで、遺産分割の話し合いが全くできません。どうすれば、父が遺言書を作ったかどうか、確認できるでしょうか?
解説
まず、遺言書がないのに姉が嘘をついている場合、姉が一人で、自宅の土地建物の登記名義を変更することはできません。ただ、預貯金については、同居している姉ならお父様のキャッシュカードの暗証番号を知っている可能性があり、金融機関でお父様が亡くなったのを把握できていないと、相続開始後も無断で払い戻しをされてしまう恐れがあります。なので、心当たりのある金融機関には早めに、お父様の死亡を連絡して、相続の手続きに入るべきでしょう。
遺言書が本当にある場合には、遺言書に基いて姉が一人で登記名義の変更や預金の払い戻しができます。ただ、お父様が自分で書いた遺言書(自筆証書遺言)であれば、お父様が亡くなった時点で直ちに遺言書の効力が発生するわけではありません。
自筆証書遺言であれば、封がされているので(封がなかったり、開封されていると遺言書としては無効になります)、姉がその遺言に基いて、遺産を取得したいなら、家庭裁判所へ遺言を持って行ってその確認をする手続(検認)をしなければなりません。この検認の際に、家庭裁判所から相続人全員に対する通知がなされるので、この段階で遺言の内容を知ることができます。そして、家庭裁判所において、相続人全員の立会のもと遺言書を開封してその内容を確認します。
この内容に納得できなければ、遺言書の無効を裁判で訴えたり、遺言書に記載されている遺産の分割の方法が姉の利益に偏っている場合には遺留分減殺請求という手続きをして、自身の取り分をある程度、確保できる可能性があります。
これに対して、お父様が公証役場に依頼をして遺言書を作成した場合(これを公正証書遺言といいます)、この遺言書はお父様が無くなった時点で即座に効力が発生します。つまり、姉は公正証書遺言に基いて、一人で登記名義を変更したり、預金の払い戻しができます。
家庭裁判所の検認の手続きがないので、何もしないと、他の相続人には、公正証書遺言の内容を確認できないことになります。そこで、最寄りの公証役場でお父様の遺言の有無を検索して、実際にあれば、閲覧の手続きをすることができます。また、お父様の不動産の登記名義が変更されていたのなら、法務局で名義変更の申請書を閲覧できるので、その際に公正証書のコピーを閲覧できます。
もっとも、公正証書は公証人立会のもとで作成された信頼性の強い遺言書なので、その内容に不満があるからといって、遺言書とは異なる遺産分割の方法を実現するのは、一般的には困難でしょう。仮に、公正証書遺言の作成時点でお父さまに認知症の疑いがあったとしても、それを死後に立証するのは容易ではありません。生前からお父様の心身の状況の把握に努め、必要であれば成年後見人を就ける手続きをするなど、同居の親族に(被相続人の)判断能力の低下に乗じた遺産の食いつぶしや偏った遺言書の作成を事前に阻止する工夫が大事になってきます。